指導とパワハラとの境界線
<よくある勘違い>
「パワハラは、どの程度まで許されるのか?」と尋ねられることがあります。具体例に踏み込んだ話をしてみると、その人がパワハラの常習犯であることが分かります。
「業務の指示や指導は、どの程度までならパワハラにならないのか?」と尋ねられることもあります。具体例に踏み込んだ話をしてみると、その人がパワハラの指摘を恐れて、的確な業務指示や十分な指導ができていないことが分かります。
パワハラは、どんなに程度が軽くても、許されないパワハラです。
業務の指示や指導は、どこまでやってもパワハラにはなりません。
<パワハラの本質>
業務指示を受けたとき、その業務が得意で好きな仕事であるとか、新しい仕事を覚えて成長できるのは嬉しいという心理状態でなければ、仕事が増えることや忙しくなることを考えて、精神的なダメージを受けるのは仕方のないことです。
また、優しく丁寧な指導を受けたとしても、それが失敗の指摘であったり、やり直しが必要なことであったりすれば、多少の精神的ダメージを受けます。
これらは、業務指示や指導にどうしても伴うものですから、避けようがないのです。これを恐れて、指示や指導を控えたのでは、業務が円滑に進みません。
こうしたやむを得ないものとはいえない、余計な精神的ダメージを与えるのがパワハラです。つまり、必ずしも業務指示や指導に不可欠とはいえない、余計な精神的ダメージを与えうる言動がパワハラです。
これが業務指示や指導とパワハラとの境界線です。
<会社の損害>
社内でパワハラ行為が行われれば、会社に損害が発生します。
パワハラによる精神的ダメージとしては、自尊心を傷つける、羞恥心を侵害する、やる気を失わせる、怒りを誘発する、愛社精神を減退させるなど、生産性を低下させるあらゆるものが想定されます。
恐ろしいのは、直接の相手だけでなく、周囲の人たちや、間接的に聞いただけの人たちにも精神的ダメージを与えるので、生産性の低下が広範囲に及ぶことです。
こうした現象を指して「就業環境を害する」と言っています。
いずれにせよ、これだけの損害が生じているのですから、会社は加害者をそのポジションに置いておくことを避けなければなりません。
<罪を憎んで人を憎まず>
パワハラの加害者は、社内で憎まれています。
しかし、会社からパワハラについての具体的な説明や教育を受けていないのに、パワハラ行為を行ったとして周囲から非難されたのでは、本人も大いに戸惑ってしまいます。会社の指導不足を考えると、パワハラの加害者も会社との関係では、ある意味被害者なのかもしれません。
また社内外を問わず、ハラスメントを行う人は、強いストレスにさらされていることが多いものです。課長がパワハラに走るのは、部長からパワハラを受けているからであり、部長がパワハラに走るのは、社長からパワハラを受けているからということもあります。家族や親戚、ご近所さんからのストレスが強いのかもしれません。
パワハラ行為への対応の一環として、加害者とされた人への聞き取りを行うでしょう。この時に、何か大きな悩みやストレスを抱えていないのか、それは解消できないのか、確認してみる必要もあるでしょう。
2024年7月12日
社会保険労務士 柳田 恵一
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