採用にあたってゲノム情報を理由とした不当な差別はやめましょう
<厚生労働省の対応>
令和5(2023)年の第211回通常国会で成立した「良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律」の中に、ゲノム情報による不当な差別等への適切な対応の確保に関する条項が盛り込まれたこと等をふまえ、厚生労働省では、労働分野での不当な差別を防止するための対応として、Q&Aをとりまとめ令和6(2024)年8月20日に公表しました。
このQ&Aは、労働分野におけるゲノム情報に関する基本的な考え方を示したものです。
<ゲノム情報>
ゲノムとは、遺伝子をはじめとする遺伝情報の全体を意味します。
そして、遺伝子はDNAと呼ばれる物質でできています。
人の遺伝情報は、DNA上にアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)という約30億個の文字で書かれています。
人の身体を構成する一つ一つの細胞は、2万数千個もの遺伝子によってコントロールされています。
遺伝子は人の身体の細胞が正しく働くための設計図です。
ゲノム情報は、人の外観からは分かりませんが、非常に個性の強いセンシティブな個人情報です。
<応募者のゲノム情報>
そもそも採用選考時、企業が応募者に遺伝情報の提出を求めても問題ないのでしょうか。
応募者等の個人情報の取扱いについては、職業安定法第5条の5と同法に基づく指針により、業務の目的の達成に必要な範囲内でその目的を明らかにして収集することとされています。
差別の原因となる恐れのある事項については、特別な職業上の必要性が存在することその他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合を除き、収集してはならないこととされています。
遺伝情報は、この「社会的差別の原因となるおそれのある事項」に含まれます。
また、応募者の遺伝情報を取得・利用することは、本人に責任のない事項を採否に影響させることになり公正な採用選考の観点から問題があります。
必要のない情報を把握するような違反行為をした場合には、職業安定法に基づく改善命令が発せられ、改善命令に違反した場合には罰則の対象となる可能性もあります。
このように、採用選考の関係では、厚生労働省がハローワークを通じ、遺伝情報を収集してはならないという点について、罰則等を含め一連の法的手当や採用選考時に配慮すべき事項の周知・啓発等を実施しています。
<採用後の配慮事項>
採用後であっても、従業員に対してゲノム情報を取得して提出するよう求めることには、合理的な理由が見出し難いので避けましょう。
また、ゲノム情報を基に解雇すること、配置転換を求めること、昇格・昇給に関する不利益な取扱いをすることも不当な行為となります。
ちなみに、従業員が配置転換や解雇などの不利益取扱いを受けた場合は、都道府県労働局や労働基準監督署等に設置された総合労働相談コーナーが相談窓口となっています。
2024年9月20日
社会保険労務士 柳田 恵一
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