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公的年金の財政検証とともに示された制度改正を仮定したオプション試算(令和6年)

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<公的年金の財政検証>

公的年金制度については、国民年金法と厚生年金保険法の規定によって、少なくとも5年ごとに、年金財政の現況と見通しが作成されています。これが「財政検証」と呼ばれるものです。 

国民年金、厚生年金といった公的年金制度は長期的な制度であるため、社会・経済の変化を踏まえ、適切な年金数理に基づいて、長期的な年金財政の健全性を定期的に検証することが、公的年金の財政運営にとって不可欠とされています。 

令和6(2024)年も財政検証の年にあたり、7月3日に開催された第16回社会保障審議会年金部会で、「令和6(2024)年財政検証結果」、「オプション試算結果」、「財政検証関連資料」が公表されています。 

このうち「オプション試算結果」というのは、仮に一定の制度改正を行ったならば、将来的に年金財政はこのようになるだろうというシミュレーション結果を示したものです。 

あくまでもシミュレーションではありますが、現実的な制度改正案についてのものですから、早ければ令和7(2025)年中に、法改正案が国会に提出されるかもしれません。 

 

<社会保険(被用者保険)の更なる適用拡大>

公的年金制度の維持のため、また将来の年金受給額を増やすため、被用者保険の更なる適用拡大がシミュレーションされています。 

これらは、試算の便宜上としつつも、令和9(2027)年10月に更なる適用拡大を実施した場合を想定しています。 

 

①:被用者保険の適用対象となる企業規模要件の廃止と5人以上個人事業所の非適用業種の解消を行う場合90万人拡大 

①に加え、短時間労働者の賃金要件の撤廃または最低賃金の引上げにより同等の効果が得られる場合約200万人拡大 

②に加え、5人未満の個人事業所も適用事業所とする場合約270万人拡大 

:所定労働時間が週10時間以上の全ての被用者を適用対象とする場合約860万人拡大 

 

<基礎年金の拠出期間延長・給付増額>

公的年金制度の維持のため、また将来の老齢基礎年金受給額を増やすため、財政検証の中のオプション試算として、基礎年金の保険料拠出期間を現行の40年(20~59歳)から45年(20~64歳)に延長し、拠出期間が伸びた分に合わせて基礎年金が増額する仕組みとした場合のシミュレーションも行われています。 

これは、試算の便宜上、2031年度に60歳に達する人から、生年度が2年次上がるごとに1年ずつ拠出期間を延長した場合として試算されています。 

これによって、全被保険者共通の給付である基礎年金が充実すると試算されています。 

勤め人として厚生年金に加入している人にとっては、将来受け取る老齢年金が増額されることになり、嬉しい制度改正です。 

しかし、自営業者など国民年金加入者にとっては、月額17,000円の保険料を、現在よりも5年長く、合計100万円余りを追加で納付することになりますから、簡単には受け入れられない改正となります。 

 

<在職老齢年金の仕組みの廃止>

在職老齢年金の制度は、就労し一定以上の賃金を得ている65歳以上の老齢厚生年金受給者を対象に、老齢厚生年金の一部または全部の支給を停止する仕組みです。 

これについても、シミュレーションが行われているのですが、働く年金受給者の給付が増加する一方で、将来の受給世代の給付水準が低下すると結論付けられています。 

他のシミュレーションが、年金財政の健全化を目指したものであるのに対し、在職老齢年金制度の廃止は、労働力不足を意識し、高齢者が積極的に労働に参加するように促す点で、他の施策とは異なる特徴を備えています。 

しかし、将来の受給世代の給付水準が低下するという大きな欠点を抱えている以上、簡単には実現できない施策といえるでしょう。

2024年9月13日

社会保険労務士 柳田 恵一

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