解雇理由証明書の請求による挟み撃ち
<解雇の有効要件>
解雇の中には、労働基準法で禁止されているものがあります。
業務災害からの復帰後30日間や、産休中とその後30日間の解雇禁止は、良く知られています(労働基準法第19条)。
これに反する解雇をすれば、「六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する」(労働基準法第119条)とされる犯罪ですから、あえてこれを行う経営者や管理職は極めて稀でしょう。
しかし、刑事事件とはならない不当解雇は、跡を絶ちません。
つまり、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」(労働契約法第16条)とされているのですが、感情的になった経営者や管理職は、この規定を無視して解雇を通告してしまうこともあるのです。
<不当解雇をされた従業員の反撃>
解雇を通知されれば、ショックを受けますし、反省もすることでしょう。
しかし、精神的に落ち着いてくると、労働基準監督署、市町村の法律相談や労働相談、弁護士や社会保険労務士の初回無料相談を利用するようになってきます。
ここでお勧めされるのは、会社に対する解雇理由証明書の交付請求です。
なにしろ、本人にしてみれば解雇に納得がいかない、解雇の理由がおかしいのではないかと疑念を抱いているからです。
<解雇理由証明書の交付義務>
労働基準法には、退職時等の証明として、「労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない」という規定があります(労働基準法第22条第1項)。
解雇を通知された従業員が、請求しなければそれまでなのですが、請求すれば会社は交付せざるを得ません。
交付しないと、「三十万円以下の罰金に処する」(労働基準法第120条)という規定がある以上、犯罪が成立してしまい送検される可能性があります。
会社が解雇の理由を文書にして交付すれば、ネットを通じて公開される可能性もあります。
これを恐れて交付しなければ、労働基準法違反ですから、労働基準監督署から催促されてしまいます。
<解雇理由証明書の交付リスク>
解雇理由証明書を交付すれば、それは正式な証拠書類となります。
訴訟になれば、それが客観的に合理的な理由であり、社会通念上相当であるといえるのかが、吟味されることになります。
会社側がここまでの事態を想定して解雇を通知した場合はともかく、そうでなければ、自ら不当解雇を自白するような事態となってしまいます。
つまり、解雇理由証明書を交付してもしなくても、会社は大きなリスクを負うことになり、挟み撃ちに遭うことになるのです。
<実務の視点から>
解雇を通告された従業員から、解雇理由証明書の交付を求められた場合、交付をしないわけにはいかず、嘘の理由や不当な理由は書けないということです。
つまり解雇は、それ相当の理由がなければできないのです。
解雇を検討する場合には、解雇理由証明書の交付を想定したうえで、解雇に踏み切ることが求められているといえるでしょう。
2024年10月9日
社会保険労務士 柳田 恵一
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