逆パワハラが深刻化しやすいという特性を考慮した現実的な対処法
<逆パワハラとは>
部下の上司に対するパワハラや、パート社員の正社員に対するパワハラなど、形式的に見て立場が下の者から、立場が上の者に対して行われるパワハラを、「逆パワハラ」と呼ぶことがあります。
形式的に見て、部長は課長よりも立場が上なのですが、現実には課長から部長へのパワハラが発生しています。
また、契約形態の違いではあるものの、正社員はパート社員よりも職務権限の範囲が広く責任が重いことから、立場が上だとされているのですが、現実にはパート社員から正社員へのパワハラも発生しています。
<逆パワハラという言葉が誕生した背景>
職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われる
1.優越的な関係を背景とした言動であって、
2.業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
3.労働者の就業環境が害されるもの
であり、1.から3.までの3つの要素を全て満たすものをいいます。
なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。
上記1.の、「優越的な関係」というのは、必ずしも役職が上であるとか、パート社員に対して正社員であることなどに限られてはいません。
ところが、形式的に見て立場が下の者から、立場が上の者に対しては、パワハラが行われることがないという勘違いが、まだまだ残っています。
これは、パワハラ教育が進んでいないことを示しています。
<逆パワハラの実例>
ある企業で、新卒採用の男性社員がコツコツと実績を重ね、やっと課長になりました。数年後には、部長が役職定年を迎えることから、次は自分が部長に昇格するだろうと期待していました。
ところが、大手企業で働いていた若い女性が、縁故採用で入社してきて、その部署の部長として働き出しました。元の部長は、自己都合で退職してしまったのです。
こうなると、課長である男性社員は面白くありません。新しい年下の部長から、何か業務指示を出されても、素直に従わず、自分の考えで仕事を進めてしまいます。部長から何か聞かれても、「そんなことも分からないんじゃ部長失格だ!」と言って答えません。それどころか、部長から挨拶しても、課長はこれを無視します。
周囲の社員たちは、関わり合いになりたくないので、見て見ぬふりをしています。
<逆パワハラへの誤った対応>
この部長は、眠れないし、胃の調子が悪いし、大きなストレスを感じています。
幸いにして、その会社にはパワハラ相談窓口が設置されています。そこで、部長はこの窓口に相談しました。
ところが、相談窓口担当者から「課長は、あなたの部下なんだから、あなたが指導して改善させる立場ですよ」と言われてしまいました。
相談窓口の担当者は、ハラスメントについて、一段高い知識と相談スキルを備えていなければならないのですが、形式的に特定の役職に就いている人を、就業規則でパワハラ相談窓口としているに過ぎないことがあります。
すると、このように誤った対応が頻発することになります。
こうした対応をとられると、相談者は絶望します。訴訟に発展する可能性が極めて高くなるパターンです。
<逆パワハラへの現実的対応>
新たに管理職になった人、昇進した管理職に対しては、そのまた上司が就業環境への気遣いをする必要があります。
新たに部長となった人については、上司となると取締役ということもあるでしょう。そうであれば取締役が、定期的に部長に声をかけ、業務をこなしていくうえでの不安や、就業環境の問題点について聞き取りを行い、会社の問題点であるととらえて、改善に向かわなければなりません。
場合によっては、取締役から課長に対して、警告を発することも必要でしょうし、人事考課についても説明しておくのが効果的です。
パワハラ相談窓口は、逆パワハラに対しては無力なことも多いので、こうした現実的な対応が求められます。
2024年11月19日
社会保険労務士 柳田 恵一
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