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解雇と自主退職との効力関係

人事情報お役立ちブログ(毎週更新) 人事管理関連

<問題の所在>

退職者に雇用保険の離職票を送付したところ、「離職理由が一身上の都合というのはおかしい。私は解雇されたではないか」という連絡が入ることがあります。 

また、従業員から退職願が提出され、これに基づいて会社が手続を進めたところ、後になってから「あれは解雇だったのだから、解雇予告手当を支払ってください」という連絡が入ることもあります。 

このように、解雇と自主退職のどちらであったのか、退職者と会社とで見解が分かれ、トラブルになることがあります。 

 

<解雇・自主退職の意味>

解雇は、会社からの一方的な意思表示によって、労働契約を解除することをいいます。 

自主退職は、従業員からの一方的な意思表示によって、労働契約を解除することをいいます。 

会社と従業員との協議によって、労働契約を解除することとなった場合には、合意退職と呼ばれますし、休職期間が満了しても業務に復帰できない場合には、自動退職・自然退職などと呼ばれます。 

 

<解雇と自主退職とが重なる場合>

会社から従業員に解雇を通告したところ、従業員から「解雇は嫌なので自主退職します」という申出があることもあります。 

反対に、従業員から会社に退職の申出をしたところ、その従業員の不正が発覚し解雇となることもあります。 

これらの場合には、解雇と自主退職とで、先に効力が発生した方が有効となります。なぜなら、その時点で、労働契約が解除されることになるからです。 

解雇を通告する場合には、文書で行うのが通例です。これには、解雇の理由、解雇の効力が発生する日、解雇を通告した日が記載されています。「就業規則第◯条により、◯年◯月◯日をもって解雇します。◯年×月×日」という形式になります。 

一方で、退職願には、退職の理由、退職の効力が発生する日、退職を願い出た日が記載されています。「一身上の都合により、◯年◯月◯日をもって退職いたしたく…。◯年×月×日」という形式になります。 

解雇通告と退職願が同じ時期に交付された場合、先に交付された方が有効ということではありません。解雇と退職とで、先に効力が発生した方が有効となります。後から効力が発生した方は、すでに解除された労働契約をさらに解除するものであり、無効となってしまいます。 

 

<トラブル防止のために>

会社側も従業員側も冷静に、解雇通告や退職願を交付すれば、大きなトラブルとはならないはずです。ところが、口頭で済ませようとしたり、効力発生日が不明確な通知をしてしまったりすると、効力の発生日が不明となりトラブルになります。 

会社から従業員に解雇を通告したところ、従業員から「解雇は嫌なので自主退職します」という申出があった場合には、従業員に正式な退職願の提出を求めなければなりません。解雇の効力が発生するよりも前の日付をもって退職を希望する旨の退職願が必要です。これによって、解雇ではなく自主退職の効力が発生することが明確になります。 

反対に、従業員から会社に退職の申出をしたところ、その従業員の不正が発覚し解雇する場合には、退職願により退職の効力が発生する前の日付で、解雇の効力が発生する内容の解雇通知を出すことが必要です。 

 

<会社側に違法性がある場合>

たとえば、就業規則に「最終出勤日をもって退職日とする」という規定があって、従業員が最後の10日間は年次有給休暇の取得に充てようと考えていたのに、この規定によって、会社から一方的に退職日を繰り上げられたとします。 

この場合には、退職の効力が発生する前に、会社から労働契約を解除されていますので、解雇されたことになります。これは、多くの場合に不当解雇となってしまうでしょう。 

また、行き過ぎた退職勧奨により、従業員が自由な意思に反して、強制的に退職の申出をさせられるというケースもあります。この場合には、実質的に判断され、自主退職ではなく解雇となります。これも、多くの場合に不当解雇となってしまうでしょう。 

不当解雇では、労働契約の解除が無効となり、賃金の支払義務が継続しますし、慰謝料の請求対象ともなりますから、絶対に行ってはなりません。

2024年6月28日

社会保険労務士 柳田 恵一

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