口頭による退職申出に対して退職願の提出を求める意味
<就業規則の規定>
就業規則の退職に関する規定は、多くの会社で似たりよったりです。
おそらく、厚生労働省のモデル就業規則にならったものが多いのでしょう。
【モデル就業規則】
(退職)
第52条 前条に定めるもののほか、労働者が次のいずれかに該当するときは、退職とする。 ① 退職を願い出て会社が承認したとき、又は退職願を提出して__日を経過したとき |
これには、労働者が会社に退職願を提出して、一定の期間が経過すると、退職となることが規定されています。
また、労働者から「退職を願い出て会社が承認したとき」にも、退職となることが規定されています。
しかし、退職を願い出る具体的な方法も、会社が承認する具体的な方法も規定されていません。
これは、退職願の提出によらず、口頭による退職の申し出に対して、会社が口頭で承認するケースも想定されていると考えられます。
<会社側の不都合>
労働者から会社に対し、口頭で退職の申出があったとします。
会社としては、本人から退職の申し出があったのですから、これに応えて離職票を交付するでしょうし、保険証や貸与物の返却などの依頼をすることになります。
ところが退職について翻意した本人から、「退職する気はありません」という申出が行われることがあるのです。
上司のことがどうしても嫌いで、耐えきれずに退職することを考え、衝動的に退職の申出をしたところ、その上司が異動することになったなどというのが典型的なパターンです。
退職を申し出た本人から、「体調を崩ししばらく休んでいたら、会社から一方的に離職票が送られてきた。これは、不当解雇ではないのか。」などという主張が出てくるかもしれません。
これに対して、この事実を否定する証拠を会社が持ち合わせていなければ、対応に苦慮してしまうことになります。
<本人側の不都合>
一方で、労働者から会社に対し、退職の申出をする場合に、口頭でのやり取りで済ませてしまうと、労働者も不利益を被ることがあります。
労働者が、直属の上司に対して事情を話し、退職を申し出たとします。これに対して上司が了解すれば、この労働者は退職することが了承されたものと考えます。
ところが、上司からそのまた上司、社長へと報告が進んだところで、社長から「この人手の足りない時に、個人的な都合で退職するなどけしからん。今すぐの退職は認められない。」などという話があったらどうでしょう。
直属上司から、本人に対して「社長の了解が得られなかったから、退職はできないよ。」と連絡するのでしょうか。
こうした連絡を受けて、しばらく出勤しなかったならば、その労働者は、無断欠勤が続いたことを理由に懲戒解雇されることもあるのでしょうか。
これでは、口頭で退職を申し出た労働者が、大きなリスクを負ってしまいます。
<実務の視点から>
このように、口頭での退職申出を、会社側がそのまま受けてしまうのは、労使双方にリスクを抱えることになります。
労働者から上司に口頭での退職申出があった場合には、口頭で済ませることのリスクを説明し、退職願(退職届)の提出を促しましょう。
退職の決裁権者から、退職についての了解が得られたなら、その旨、会社から労働者に文書で通知することとし、退職手続などの説明文とともに、本人に交付する慎重さが求められます。
2024年8月30日
社会保険労務士 柳田 恵一
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