パワハラの6類型相互比較による防止対策の強化
<パワハラの6類型>
厚生労働省は、パワハラを6つの類型に分類しています。
①身体的な攻撃(暴行・傷害)
②精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
③人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
④過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
⑤過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事
を命じることや仕事を与えないこと)
⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
<①身体的な攻撃>
暴行は、人の身体に対する不法な有形力の行使とされます。物を投げつけて当たらなくても暴行罪は成立します。また、ケガをさせた場合、ケガをさせる意図がなくても暴行の故意があれば、傷害罪が成立しますし、殺意がない場合に死の結果が発生すれば、傷害致死罪が成立します。
身体的な攻撃は、それ自体が犯罪ですから、パワハラの成立は明らかです。
ただし、うっかりぶつかるなど、過失によるものは暴行罪となりませんし、パワハラも成立しません。
<②精神的な攻撃>
精神的な攻撃は、主に言葉によって行われますが、顔の表情や大声などによっても行われます。
この場合、怯えさせてやろう、自尊心を傷つけてやろうという明確な意図や目的を伴わなくても、言葉を発し、表情を作り、大声を出すことは故意に行っています。
行為者が「そんなつもりではなかった」と言ってみても、周囲に第三者がいてこれを見聞きしたときに、精神的な攻撃があったと認識するものであれば、パワハラ行為があったことになります。
<③人間関係からの切り離し>
仲間はずれにしたり無視したりは、意図して行う行為ですし、行為の態様が明確です。
過失によって、パワハラが成立することもありません。
<④過大な要求・⑤過小な要求>
要求の内容そのものだけを客観的に見ても、過大なものである、過小なものであるという判断はつきません。
どのような立場の、どのような能力の人に対する、どのような状況下での要求なのか、また与えられる時間との関係で求められるスピードも判断要素となります。
たとえば、「A4判の資料10ページをパソコンからプリントアウトして、40部ホチキス止めしてください」という業務指示は、これ自体、過大な要求でも過小な要求でもないでしょう。
しかし、「今日は用事があるので残業せずに帰りたい」と朝一番で申し出た部下に対して、あえて終業時刻の直前に、課長が「今日中に」ということで、この業務指示をすれば、これは過大な要求に該当しパワハラとなります。
あるいはまた、朝の始業時刻前に、部長から課長に、この業務を一日がかりで行うよう指示したのなら、これは過小な要求に該当しパワハラとなります。
過大な要求も過小な要求も、具体的な事情を知っている人が、意図的に行うことで成立するパワハラです。
<⑥個の侵害>
プライバシーの侵害によるパワハラは、私的なことに意図して過度に立ち入ることで成立します。
偶然や過失によって、秘密が漏れてしまうような事態は、パワハラとはされません。
<パワハラの成立要件>
職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われる
・優越的な関係を背景とした言動であって、
・業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
・労働者の就業環境が害されるもの
であり、3つの要素を全て満たすものをいいます。
なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。
<業務上必要かつ相当な範囲>
パワハラの6類型のうち、①身体的な攻撃と③人間関係からの切り離しについては、「業務上必要かつ相当な範囲」というものが想定できませんので、絶対的禁止が求められます。
しかし、②精神的な攻撃については、業務に伴う通常の「精神的な苦痛」との区別が必要です。たとえば、5人の部署に相当量の急ぎの仕事が来た場合に、5人で分担しても、5人とも「精神的な苦痛」を感じるということはあります。しかし、これは業務に伴う通常のものであり、避けられないものですから、誰もパワハラの被害者にはなりません。
②精神的な攻撃は、業務指示や指導など業務に不可欠な範囲を超えて「精神的な苦痛」を与えることを指しています。昭和時代には、当たり前のように行われていたことでもあり、「業務に不可欠な範囲」の言葉や声の大きさなどについて、研修などを通じて、丁寧な説明を行う必要があります。
また、少しだけ難易度の高い業務を任せて成長を促すのは、④過大な要求とまではいえません。疑問があればすぐに質問すること、荷が重ければ断っても良いことなどを説明しておけば問題はないでしょう。
反対に、心身の疲労が見られる部下に対して、普段より楽な業務を与えるのは、⑤過小な要求とまではいえません。「疲れているようだから、しばらくこの仕事をしてください」という説明をしておく必要はあります。
総務・人事部門では、担当業務によっては、個人情報を扱うことがあります。また業務上、上司が部下の個人情報を知ることもあります。この業務の範囲を超えて詮索することや、業務上知り得た個人情報を業務と関係なく公開することが、⑥個の侵害によるパワハラとなります。このように、業務上、個人情報を扱う従業員に対しては、個人情報の保護について一段上の教育をする必要があります。
2024年6月19日
社会保険労務士 柳田 恵一
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