パワハラ行為を行うつもりじゃなかったという言い訳
<疑惑に対する弁明>
テレビニュースなどで、パワハラの疑惑を持たれた人、しかも社会的地位のある人が、「そんなつもりじゃなかった」「熱心な指導のつもりだった」など、言い訳している姿が見られます。
「自分には、パワハラ行為の故意がなかったのだから、許されるのではないか」と考えているようです。
これは、パワハラに対する無理解を示しているに過ぎません。
<パワハラの成立要件>
厚生労働省は、パワハラの成立要件について次のように説明しています。
職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われる
① 優越的な関係を背景とした言動であって、 ② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、 ③ 労働者の就業環境が害されるもの であり、①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。 なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。 |
上記のうち、①から③までがパワハラの成立を肯定するための積極要件、「なお、」以下がパワハラの成立を否定する消極要件です。
<優越的な関係を背景とした言動であって>
上司が部下を怒鳴りつけるのは、上司が部下の上司であるがゆえに行うのです。もし部下が上司を怒鳴りつけていたら、それは多くの場合に奇妙な光景となってしまいます。このことからも、優越的な関係を背景としていることは客観的に明らかです。
一方で、上司がパソコンの操作に不安があって、いつも部下に教えてもらっていたところ、上司が部下に「ちょっと教えて」と声を掛けた時に、部下が仕事を邪魔されたと感じ、上司に対して「何ですか?邪魔しないでくださいよ!自分で調べたらどうですか?!」と怒鳴ったら、これは部下から上司に対するパワハラとなります。この場合には、パソコン操作について優越的な関係にある部下が、これを背景として上司を怒鳴りつけていることになります。
これらの場合、パワハラ行為を行った人が、優越的な関係に立っていることを意識していなくても、客観的に見て優越的な関係に立っているという事実があれば、パワハラの成立要件①は満たされます。
<業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより>
これについても、行為者が「あのくらい厳しく言わなければ分からないと思った」など主観的なことは、判断基準となりません。
客観的に見て、業務の指示に必要な範囲の言動であったか、指導に必要な範囲の言動であったかが基準となります。
怒鳴ること、机を叩くこと、物を投げること、にらみつけることなどは、客観的に見て業務の指示や指導に必要なことではありませんから、パワハラの成立要件②を満たしています。
<労働者の就業環境が害されるもの>
これは、ある人の言動によって、落ち着いて業務に集中できない人が発生したり、出勤したくなくなる人が発生することを意味していますので、行為者の主観ではなく、ある人の言動から影響を受けた人々の主観が問題とされます。
ですから、労働者の就業環境が害されるという認識の有無は、パワハラの成立要件③とは無関係です。
<パワハラの成立要件は客観的であるということ>
このようにパワハラの成立要件は、①から③までのすべてが客観的なものであって、行為者がどういうつもりで行ったかという主観は、全く関係ないことが分かります。
そして、①から③までの成立要件が満たされた場合であっても、「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません」ということですが、この消極要件についても、先頭に「客観的にみて、」という言葉が入っています。
行為者が自分の行為について「適正な業務指示や指導」だと思っていたとしても、これは主観に過ぎませんから、パワハラの成否には全く影響しません。
こうして、行為者の主観や故意は、パワハラの成否に影響しないことが分かります。
ここの理解が足りないために、パワハラ疑惑を受けた人は、盛んに主観的な意見を述べるのですが、周囲からは冷ややかな目で見られることになるのです。
<パワハラ相談窓口の活用>
パワハラの疑惑をかけられたら、行為者本人の主観は、全く考慮されないのですから、「なぜパワハラだと疑われたのか」「自分の行為はパワハラに該当するのか」ということについて、社内外のパワハラ相談窓口に確認することをお勧めします。
こうした窓口は、本来は被害者が相談するために設けられていますが、パワハラの成否について、それこそ客観的に判断する役割を担っていますから、加害者であると疑われた人の相談を拒む理由はないのです。
そして改めて、自分の言動がパワハラに該当していたといえるのか、考えてみることをお勧めします。
2024年11月5日
社会保険労務士 柳田 恵一
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