派遣先企業での派遣労働者への労働法適用
<派遣社員への労働法適用>
派遣会社に労働者の派遣をお願いしていると、なんとなく「すべて派遣会社にお任せ」という感覚に陥りやすいものです。
しかし、派遣労働者を利用している派遣先にも、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、労働施策総合推進法の中の、次のような規定が適用され、自ら雇用する労働者と同様、派遣労働者に対しても、事業主としての責任を負うことになっています〔労働者派遣法第47条の2、第47条の3、第47条の4等〕
◯ 妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止
◯ 育児休業等の申出・取得等を理由とする不利益取扱いの禁止 ◯ 職場におけるハラスメントを防止するための雇用管理上の措置等 ◯ 妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置 |
また、国内労働関係法令は外国人労働者についても適用されますので、事業主は外国人の派遣労働者についても責任を負うことになっています。
さらに、労働者派遣法や「派遣先が講ずべき措置に関する指針」により、派遣先が労働者派遣契約の締結に際し、派遣労働者の性別を特定する行為は禁止されています。これとは別に、職業安定法や均等法の趣旨からも、派遣労働者に対し性別を理由とする差別的取扱いを行ってはならないことになっています。
<妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止(均等法第9条第3項)>
派遣先が、派遣労働者の妊娠・出産・産休取得等、厚生労働省令(昭和61年労働省令第2号)で定められている事由を理由として、不利益な取扱いをすることは禁止されています。
厚生労働省令で定められている主な事由として、次のようなものがあります。
◯ 妊娠・出産したこと
◯ 母性健康管理措置を求め、または受けたこと ◯ 産前産後休業を請求し、または取得したこと ◯ 産後の就業制限の規定により就業できなかったこと ◯ 軽易な業務への転換を請求し、または転換したこと ◯ 育児時間の請求をし、または取得したこと |
この他、妊娠または出産に起因する症状により、労務の提供ができないことや、労働能率が低下したことも含まれていますので、かなり注意しなければなりません。
また、不利益な取扱いの内容についても、指針(平成18年厚生労働省告示第614号)で、次のようなものが定められています。
◯ 派遣先が派遣労働者の役務の提供を拒むこと、専ら雑務に従事させること
◯ 妊娠した派遣労働者が、派遣契約に定められた役務の提供ができると認められるにもかかわらず、派遣先が派遣元に対し、派遣労働者の交替を求めたり、派遣労働者の派遣を拒むこと ◯ 不利益な自宅待機を命ずること |
<育児休業等の申出・取得等を理由とする不利益取扱いの禁止(育介法第10 条、第16条、第16条の4、第16条の7、第16条の10、第18条の2、第20条の2、第21条第2項、第23条の2)>
派遣先にも、派遣労働者への育児休業等の申出・取得等を理由とする不利益取扱いが禁止されています。
不利益取扱い禁止の対象となる制度・事由としては、次のようなものがあります。
◯ 育児休業、出生時育児休業
◯ 子の看護休暇 ◯ 所定外労働、時間外労働、深夜業の制限 ◯ 育児のための所定労働時間の短縮措置 |
この他、出生時育児休業中の就業について、就業可能日等の申出や事業主から提示された日時について、同意をしなかったこと等も含まれます。
また、不利益な取扱いの内容については、指針(平成18年厚生労働省告示第614号)に定められていますが、先述の妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いとほぼ同様の項目が掲げられています。
ただし、「労働者が希望する期間を超えて、その意に反して所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限又は所定労働時間の短縮措置等を適用すること」といった固有の項目も含まれます。
<職場におけるハラスメントを防止するための雇用管理上の措置等>
派遣先は、派遣労働者についても、職場におけるセクシュアルハラスメント対策、
妊娠・出産等に関するハラスメント対策、育児休業等に関するハラスメント対策及びパワーハラスメント対策として、雇用管理上及び指揮命令上必要な措置等を講じなければなりません。
しかし派遣先の責務は、特別なものではなく、職場におけるハラスメントを防止するための雇用管理上の措置等、労働者の派遣を受けていなかったとしても、当然に講ずべき措置を行い、派遣労働者に対しても適用するということになります。
<妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置(均等法第12条、第13条第1項)>
派遣先は、自ら雇用する労働者と同様に、派遣労働者についても、妊娠中および出産後の健康管理に関する必要な措置を講じなければなりません。
◯ 妊産婦が保健指導又は健康診査を受けるために必要な時間の確保
◯ 妊産婦が保健指導又は健康診査に基づく主治医等の指導事項を守ることができるようにするために必要な措置 (例)時差通勤、休憩回数の増加、勤務時間の短縮、休業等 |
<実務の視点から>
以上のことから、派遣労働者を利用するにあたっては、自社の労働者に対する措置がきちんと行われていることが、前提となっているということが分かります。
このことを踏まえ、派遣労働者の利用について、改めて考えていただけたらと思います。
2025年1月15日
社会保険労務士 柳田 恵一
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