労災隠しの認定基準
<労災隠しと誤解されるケース>
社内で業務災害が発生し、被災者がケガを負ったとします。
この場合、労災の発生を親会社や元請業者に知られたくないということで、会社と被災者が共謀し、あるいは会社が被災者に強要して、健康保険での治療をすることがあります。そして、患者の3割負担の部分は、会社が負担します。
正しく労災保険の手続をすれば、治療費の負担は発生しません。
また、ケガによって被災者が労務不能となり、長期休業した場合には、健康保険を使って傷病手当金の支給を受けることにしてしまいます。これは、賃金の約3分の2という金額になります。
正しく労災保険の休業補償給付を受ければ、休業特別支給金と合わせて、賃金の8割の補償を受けることになります。
こうして、本来、労災保険が適用される事案に、不正に健康保険を使うと、被災者に不利益が発生しますし、一種の保険詐欺ですから、刑法の詐欺罪の適用もありえます。これには、10年以下の懲役(令和7年6月1日からは拘禁刑)という罰則が規定されています。〔刑法第246条〕
<本当の労災隠し>
「労災隠し」とは、事業者が労災事故の発生を隠すため、労働者死傷病報告(労働安全衛生法第100条、労働安全衛生規則第97条)を、故意に提出しないこと、または、虚偽の内容を記載して提出することをいいます。
つまり、労災そのものを隠すということではなく、労働者死傷病報告という書類を提出しなかったり、ウソの内容で提出したりすることが、労災隠しとされているのです。
<労働者私傷病報告>
労働者死傷病報告は、休業4日以上の場合と、休業4日未満の場合とで、様式、内容、提出期限が異なります。
- 休業4日以上の場合
「労働者死傷病報告」様式第23号(第97条関係)を、業務災害が発生したら、遅滞なく所轄の労働基準監督署長に提出しなければなりません。
- 休業4日未満の場合
「労働者死傷病報告」様式第24号(第97条関係)を、期間ごとに発生した業務災害を取りまとめて、所轄の労働基準監督署長に提出しなければなりません。
1~3月分 4月末日までに報告
4~6月分 7月末日までに報告
7~9月分 10月末日までに報告
10~12月分 1月末日までに報告
なお、休業がない場合や、通勤災害の場合には、労働者死傷病報告を提出する必要がありません。
2024年5月8日
社会保険労務士 柳田 恵一
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