リソースページへ戻る

所定労働時間と実労働時間との混同による違法行為

人事情報お役立ちブログ(毎週更新) 勤怠・就業管理関連

<所定労働時間>

所定労働時間は、労働基準法に定められた法定労働時間の範囲内で、使用者と労働者とが労働条件について合意して、労働契約を交わすことによって決まります。 

所定労働時間は、使用者から労働者に対して、労働条件通知書や雇用契約書などによって明示されます。 

 

<実労働時間>

実労働時間は、実際に働いた時間であり、始業時刻から終業時刻までの時間から休憩時間を差し引いた時間です。この実労働時間が、賃金支払の対象となります。 

求人情報などでは、「拘束9時間、実働8時間」などの表示が見られます。「拘束」は始業時刻から終業時刻までの時間、「実働」は拘束時間から休憩時間を除いたもので、所定労働時間のことを指しています。 

 

<社会保険や雇用保険の加入基準>

社会保険の加入基準には、原則として所定労働時間が用いられます。ただし、実労働時間が2か月連続で加入基準を超えた場合には、3か月目の初日から社会保険に加入することとなっています。 

雇用保険の加入基準も、所定労働時間なのですが、実労働時間が加入基準を超えている場合についての加入については規定がありません。雇用契約の内容と勤務の実態が長期に渡りかけ離れていると、労働者が雇用保険に入れないという不合理が生じてしまいます。 

人事部門で給与計算を担当している場合、実労働時間が所定労働時間を超えていることが続いている労働者がいれば、実態に合わせて労働契約の内容を見直し、労働条件通知書や雇用契約書の交付をやり直すでしょう。 

この点、給与計算を外注に出している場合には、こうしたチェックも業務委託契約の内容に含めておく必要があります。 

 

<給与計算の基準>

賃金の支払対象は、あくまでも実労働時間です。 

かつては店舗などで、開店時刻を始業時刻としながらも、開店時刻前の準備をさせておきながら、所定労働時間だけの賃金しか支払わないということが行われていました。 

これは、閉店時刻後に残っているお客様の接客や閉店作業についても行われていたことで、いずれも明らかな不払残業であり、労働基準法第24条の賃金全額払いの原則に反します。 

こうしたことについて、労働者側から使用者側に抗議をしても、雇用契約の所定労働時間通りに正しく賃金を支払っているという説明をして逃げていました。もっとも、こうした使用者は、労働条件通知書の交付義務を怠っていることもあり、労働者が不払賃金を正しく計算することもできないまま、職場を離れていく実態がありました。 

このような所定労働時間と実労働時間との混同による違法行為は、防がなければなりません。

2025年2月12日

社会保険労務士 柳田 恵一

給与・勤怠・労務システムに関するご相談はこちら