スタートアップ企業で働く労働者への労働基準法の適用に関する解釈(令和6年9月30日基発0930第3号)
<法解釈の基準の設定>
令和6(2024)年6月21日閣議決定「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2024改訂版」の中で、「スタートアップについては、創業当初のため、管理監督・機密事務・研究開発を行う者とその他の事務を行う者の業務範囲が曖昧であることから本人が希望していてもこれらの制度を適用できるのかが分かりにくい。このため、スタートアップ等の労働者や新技術・新商品の研究開発等に従事する労働者に対する裁量労働制等の運用明確化等を図る」とされました。
これを踏まえ、スタートアップ企業で働く人が、労働者に該当するか否かまた管理監督者等に該当するか否かの判断での基本的考え方について、通達(令和6年9月30日基発0930第3号)で具体的な内容が示されました。
以下にこの概要をご紹介いたします。
<スタートアップ企業の特殊性>
「スタートアップ企業」というのは、一般的に、新たに事業を開始し、かつ、新しい技術やビジネスモデルを保有し、急成長を目指す企業をいいます。
スタートアップ企業では、特にその創業当初には、経営者と従業員の区分が不明確なことがあります。
労働基準法については、創業からの年数にかかわらず、全企業が遵守すべきものではありますが、スタートアップ企業での働き方の特徴に配慮し、その解釈や適用について、基本的な考え方を示すこととなったものです。
<労働者該当性について>
労基法上の労働者に該当するか否かは、契約の形式や名称にかかわらず、使用従属性の有無等によって判断されます。具体的には、仕事の依頼・業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、業務遂行上の指揮監督の有無、勤務場所や勤務時間の拘束性の有無、労務提供の代替性の有無及び報酬の労務対償性等を判断要素として、個々の働き方の実態を勘案して総合的に判断されます。
スタートアップ企業の役員(社長や取締役、最高経営責任者(CEO)、最高財務責任者(CFO)等)であっても、取締役就任の経緯、法令上の業務執行権限の有無、取締役としての業務執行の有無、拘束性の有無・内容、提供する業務の内容、業務に対する対価の性質及び額などを総合考慮しつつ、会社との実質的な指揮監督関係や従属関係を踏まえて、労基法上の労働者であると判断した裁判例(京都地判平27.7.31)等があることにも留意する必要があります。
また、明示的に役員と判断できる役職がない者であっても、 使用従属性が認められないと考えられる者については、原則として労基法上の労働者に該当しないと考えられます。
<管理監督者該当性について>
ここでいう「管理監督者」は、社内で管理職とされているか否かにかかわらず、労基法第41条第2号に規定する「監督若しくは管理の地位にある者」に該当する者をいいます。
この管理監督者については、労基法第4章、第6章、第6章の2で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定が適用されません。
スタートアップ企業の従業員についても、管理監督者に該当するか否かについては、昭和22年9月13日発基第17号及び昭和63年3月14日基発第150号・婦発第47号に基づき、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者であって、労働時間、休憩及び休日に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にあるかを、職務内容、責任と権限、勤務態様及び賃金等の待遇を踏まえ、実態に即して総合的に判断することとなります。
具体的には、例えばスタートアップ企業の労働者のうち、以下の者であって、定期給与である基本給、役付手当等でその地位にふさわしい待遇がなされている、ボーナス等の一時金の支給率、その算定基礎賃金等についても役付者以外の一般労働者に比し優遇措置が講じられているという者は、一般的には管理監督者の範囲に含めて差し支えないものと考えられます。
1.取締役等役員を兼務する者
2.部長等で経営者に直属する組織の長
3.これらとその企業内で、同格以上に位置づけられている者であって、経営上の重要事項に関する企画立案等の業務を担当する者
他方、役職上は部長等に該当する場合であっても、経営や人事に関する重要な権限を持っていない、実際には出社・退社時刻を自らの裁量的な判断で決定できない、給与や一時金の面で管理監督者にふさわしい待遇を受けていないといった場合には、管理監督者には該当しないと考えられます。
<機密の事務を取り扱う者への該当性について>
労基法第41条第2号に規定する「機密の事務を取り扱う者」については、労基法第4章、第6章及び第6章の2で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定が適用されません。
ここでいう「機密の事務を取り扱う者」とは、秘書その他職務が経営者または管理監督者の活動と一体不可分であって、厳格な労働時間管理になじまない者をいいます(昭和22年9月13日発基第17号)。
スタートアップ企業の労働者のうち、上記のような実態が認められる者については、「機密の事務を取り扱う者」に該当し得ると考えられます。
<実務の視点から>
この通達で示されている内容は、スタートアップ企業に特有のものであるというよりは、すべての企業に共通することが大半です。
この通達を参考に、自社で残業手当支払の対象外とされている労働者について、労働基準法の規定が正しく適用されているか、再度確認してみてはいかがでしょうか。
2024年12月20日
社会保険労務士 柳田 恵一
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