残業代の計算は1分単位
<労働時間の集計が1分単位である理由>
賃金支払の対象となる労働時間の集計について、労働基準法には特別な規定がありません。
賃金計算の便宜上の取扱として許される端数処理については、通達に規定があるのですが、この通達に1日単位で労働時間を切り捨てたり、四捨五入したりを許す規定はありません。〔昭和63年3月14日基発150号通達〕
むしろ、労働基準法第24条第1項本文には、賃金全額払の原則が規定されていますから、たとえば、毎日5分未満の残業時間を切り捨てるという計算は許されていません。ましてや、出勤時刻の5分未満を切り捨て、退勤時刻の5分未満も切り捨てるといった、1日2回切捨て処理を行うことは、許されてはいないのです。
<労働基準監督署の指導>
所轄の労働基準監督署が、企業にサービス残業(未払い残業)の立入調査(臨検監督)に入った場合には、当然に1分単位での労働時間の把握、集計、保管を前提としています。よほどの特殊な事情がない限り、5分単位での集計などは認められません。
そして、実際に労働時間の切捨て処理と、これに基づく賃金の支払が見つかった場合には、過去2~3か月のタイムカードの打刻などを基に、賃金計算のやり直しを求められます。これは、是正勧告書の交付という形によって行われます。
これを受けた使用者は、従業員ひとり一人の労働時間の集計をやり直し、不足分を追加で支払ったうえで、支払漏れの時間と金額の一覧表を是正報告書に添付して、労働基準監督署の監督官に提出することになります。
<最近の報道に見られる事例>
令和5年12月、東京都中央区の回転寿司店に、中央労働基準監督署から、是正勧告書が交付されました。
この店では、令和4年9月以降は、労働時間を1分単位で計算し賃金を支払っていました。しかし、これ以前は、日々の労働時間について、5分未満が切捨てられて集計されていました。そこで、アルバイトが同年8月以前の未払い賃金を会社に請求したところ、会社が応じなかったため、労働基準監督署に申告したことにより、立入調査(臨検監督)が入ったのです。
賃金債権の消滅時効期間は3年ですから、会社は請求から3年前に遡った未払い賃金の支払を指導されています。
<1分単位に是正した場合の人件費>
5分単位で端数が切捨てられて、労働時間が集計されていたとします。
出勤時と退勤時にそれぞれ0分から4分の切捨てですから、平均2分✕2回で1日4分、週5日勤務だとすると20分となります。
これがすべて、25%の割増賃金だとすると、20分✕1.25=25分となります。
1週間で考えると、25分÷(40時間✕60分)=1.04%となり、月給ベースで概算1%の増額です。
物価高や賃上げの動向から、自社で4%の賃上げを考えている場合には、3%弱の賃上げと1分単位での労働時間集計を選ぶことにも、十分な根拠があるといえるでしょう。
<是正した場合のメリット>
求人広告の中に「残業代は1分単位で支給」というのを見ることが増えてきました。業種にもよるでしょうが、こうした広告に効果があるからこそ、このような表現が増えているのでしょう。
本来支払うべきだった人件費を支払うように是正し、求人広告への応募者が増えるのであれば、大きなメリットがあるといえるでしょう。
2024年3月22日
社会保険労務士 柳田 恵一
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