被災者家族との労災紛争防止
<労災保険の給付>
労災事故が発生し、被災者が治療を受ければ、その治療費は労災保険によってまかなわれます。また、3日を超えて労務不能となれば、その期間は労災保険等により、賃金の8割が補償されます。
通勤災害であれば、原則として会社側の過失は問題とされません。しかし、業務災害であれば、会社側に過失があった場合、労災保険でまかなわれない部分の補償が問題となります。
<被災者からの請求>
業務災害の原因が、設備・機械・道具などの不良であったり、マニュアル・表示の誤りであったりすれば、会社側にも過失があったとして、被災者から会社に対して損害賠償請求をすることがあります。
労災保険等ではまかなわれない、賃金の8割を超える部分や慰謝料の請求が中心となります。
しかし被災者は、自分自身に少しでも過失があれば、それを反省しますし、退職する気がなければ、復帰後のことを考えて遠慮することが多いでしょう。
<被災者家族からの請求>
被災者が苦しむ様子を見て、あるいは被災者が意識を失っているような場合には、ご家族から労災保険でまかなわれない損害について、会社に賠償を求めることがあります。
被災者家族が、会社の被災者に対する安全教育の不足を疑うこともありますし、遠慮のない主張がされることもあります。
ましてや、被災者が亡くなった場合には、相続人でもある親族から、遠慮のない追及・請求が行われやすいものです。
<被災者家族からの請求に備えて>
被災者の家族や遺族から、会社の責任を追及する場合には、会社側に過失があったことが前提となります。
会社としては、労災が発生した場合でも、会社側に過失が全くない、あるいは、ほとんど過失がないことを、被災者の家族や遺族に資料を示して説明できれば、損害賠償の請求を受けることもないでしょう。
会社の備えとしては、安全委員会、衛生委員会、産業医、顧問社労士などと協力して、次のような事前対策が必要です。
・設備の定期点検を怠らないようにする。法定の点検項目ではなくても、階段やドアの周辺など、職場の危険箇所の確認と改善を進める。
・機械類の定期点検を怠らないようにする。従業員から不具合の申し出があれば、すぐに確認し対応する。マニュアル類は、機械の近くに配置し従業員に周知する。
・道具類の不具合や老朽化を放置しない。従業員から情報を吸い上げる仕組みの構築も必要。
・危険箇所への「あぶない」「あつい」「さわるな」「指はさみ注意」などの表示を徹底する。
・安全教育や研修について、実施内容と参加者の記録を残す。できる限り、参加時の参加者の署名を保管する。
以上を実施すれば、被災者家族との労災紛争を避けることができるだけでなく、従業員の労働安全意識の向上や、労災発生の防止に役立つことは明らかです。
2025年3月14日
社会保険労務士 柳田 恵一
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