雇用契約書などにある「労使間の協議の上で」という言葉
<労使間の協議の上で>
各種契約書には、「本契約書に、定めのない事項または契約条項の解釈に疑義を生じた事項については、当事者は、信義誠実を旨として、別途協議して解決を図るものとする」などという規定が置かれることがあります。
必要なことについては、すべて契約書に定めておいたつもりであっても、思わぬ見落としがあったり、事情の変更があったりと、不都合が発生した場合には、話し合いで解決するという念の為の規定です。
これにならったのでしょうか、雇用契約書や労働条件通知書に「本契約書に定める労働条件は、労使間の協議の上で、変更することができる」のような規定が置かれることがあります。
<誤った運用>
お客様が減ったので出勤日数を減らしてもらおうとか、経営が苦しいので時給を下げさせてもらおうと考えた使用者が、労働者にこうした話をもちかけることがあります。
使用者側が、「努力を重ねているものの、近くに競合店が出店したり、光熱費や仕入値が上がったりで、経営が苦しいので理解してほしい」という説明をしたのに対して、労働者側が「それは私のせいではないし、収入が減ると生活費が足りなくなるので困ります」と答えて、押し問答になったとします。
この後で、使用者が労働者に対して、出勤日数を減らしたり、時給を下げたりした更新契約書を示して、署名するように求めたとしても、労働者は正当に拒むことができます。
一応、協議したのだから、雇用契約書や労働条件通知書の規定に従って労働条件を変更できると考えるのは、明らかな誤りです。
これが許されるのであれば、「店長、時給を200円上げてください」「いきなり何を言ってるんだ」という会話を交わしただけで、時給が上がることにもなりかねません。
<法令の規定>
労働契約法には、次のような、当たり前ともいえる規定があります。
(労働契約の内容の変更)
第八条 労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。 |
つまり、何時間協議しようとも、合意しなければ労働条件を変更することはできません。
しかもこの場合、労働者側については、自由な意思によるものであることが必要とされています。
<実務の視点から>
雇用契約書や労働条件通知書を作成する人と、これらを運用する人とが、別人ということがあります。
たとえば、作成するのは人事部の担当者で、運用するのは店長という具合です。
他にも就業規則などは、作成者と運用者が異なるものです。
作成者は、運用者が誤った運用をしないように、十分注意しながら作成することが求められます。
必ずしも必要ではない文言が、誤解を招くようであれば、削除しておくことをお勧めします。
2024年11月22日
社会保険労務士 柳田 恵一
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