労働基準法の罰則が適用される使用者とは
<労働者は罰せられない>
労働基準法には数多くの義務規定や禁止規定があって、違反に対応する罰則が規定されています。
しかし労働基準法は、弱い立場にある労働者を保護する趣旨で制定されています。このことから、罰則が適用されるのは法人と使用者のみであり、労働者が罰せられることはありません。
労働者の立場にある従業員の方から「〇〇に違反して働いたら、労働基準法で罰せられますか?」といったご質問を受けることもありますが、これはありえないことになります。
<使用者は代表取締役だけ?>
労働基準法により罰せられるのは使用者だとしても、使用者は代表取締役や社長に限定されてはいません。
実際、労働基準監督署が従業員からの通報などに対応して、企業の立入調査(臨検監督)に入った結果、悪質性が認められて書類送検され、刑事裁判の被告人となるのは、社長、役員、支配人、支店長、店長、工場長、部長、マネージャー、人事課長など幅広く報道されています。
<労働基準法における使用者の定義>
労働基準法第10条には、使用者の定義が規定されています。
この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。 |
この規定が抽象的なため、解釈を補充するための通達が発出されています。
使用者とみなされるかどうかは、部長、課長等の形式にとらわれることなく、各事業において、本法各条の義務について実質的に一定の権限を与えられているか否かによる。単に上司の命令の伝達者にすぎぬ場合は使用者とはみなされない(昭和9.13発基17 号)。 |
上記のうち「本法各条の義務」というのは、労働基準法に規定されている事業主の義務ですが、この義務を果たすことについて、「一定の権限を与えられている」人ということになります。
これでも、まだ曖昧なため、労働基準法第10条に使用者として掲げられている者について、厚生労働省は、労働基準法に関するパンフレット類で、次のように説明しています。
事業主とは、法人組織の法人そのもの、個人事業主をいいます。
事業の経営担当者とは、法人の代表者、役員等をいいます。 労働者に関する事項について事業主のために行為をする者とは、労働条件の決定、業務命令の発出、具体的な指揮監督等を行う者をいいます。 |
<使用者の定義の注意点>
上に示した使用者の定義は、あくまでも労働基準法での使用者の定義であり、労働基準法上の義務を負い、労働基準法の罰則の適用を受ける使用者です。
労働法では、労働基準法、労働契約法、労働組合法など、それぞれで使用者の定義が異なります。
これは、労働者の定義についても、同様のことがいえます。
2024年7月26日
社会保険労務士 柳田 恵一
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