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日常会話での意味とは大きく異なる法的な意味での「労働時間」

人事情報お役立ちブログ(毎週更新) 勤怠・就業管理関連

<日常会話での「労働時間」>

日常会話で「労働時間」といえば、「従業員が働く時間」という意味です。 

また、就業規則や労働条件通知書などに始業時刻、終業時刻、休憩時間が規定されていて、始業時刻から終業時刻までの時間から休憩時間を除いたのが「労働時間」だと言われたりします。 

さらに、タイムカードのみで始業・終業時刻を記録している会社では、職場への入退場の時刻が始業・終業時刻とは限らず、実際に仕事を始めた時、仕事を終わった時を基準に「労働時間」を考えるとされていることもあります。 

 

<法的な意味での「労働時間」>

労働基準法などに「労働時間」の具体的な定義はありません。 

しかし最高裁判所が、次のような判断を示していますから、会社が独自にこれとは異なる解釈を示し、マイルールとして運用していても、一般に通用するものとはなりません。 

 

「労働時間」とは、従業員が会社の監督・指揮命令下にある時間のことをいいます。 

従業員が働く時間だけではなく、それに付随する仕事の準備や片付けなどの時間も、労働時間となりえます。 

また、実際に作業していない待機時間や仮眠時間といった“手待ち時間”も、会社の監督・指揮命令下にあれば「労働時間」です。 

 

これによれば、法的な意味での「労働時間」は、日常会話での「労働時間」に、仕事の準備の時間、仕事の後片付けの時間、手待ち時間を加えたものに、ほぼ等しいということができます。 

 

<仕事の準備の時間>

仕事の予定を確認したり、仕事を進めるのに必要な情報を伝達したりは、仕事の準備ですから、出勤している人が参加を義務付けられている朝礼の時間は、賃金支払の対象となる「労働時間」です。 

清潔な環境で就業できるようにするため、会社の指示に従い当番制で掃除をする時間は、賃金支払の対象となる「労働時間」です。ただし、必ずしも必要がないのに自分の使っている椅子を掃除するのは、会社の指示に従って行うのでなければ、「労働時間」とはなりません。 

自分で飲むお茶をいれる時間は、仕事そのものの準備ではありませんから、賃金支払対象の「労働時間」ではありません。しかし現実には、短時間であれば、欠勤控除されない運用となっていることが多いでしょう。 

 

<仕事の後片付けの時間>

かつては、飲食店で営業時間終了後の閉店作業に、賃金が支払われないことも多発していました。しかし翌日以降の営業に必要な後片付けは、明らかに賃金支払対象の「労働時間」です。 

業務終了後に整理整頓する時間や電源を切る時間は、どの職場でも賃金支払対象の「労働時間」です。勤務終了後の清掃も、会社からの指示によるものであれば、「労働時間」となります。 

これに対して、自宅から持参した弁当の弁当箱を洗う時間は、会社から洗剤や水道の利用を許されていたとしても、仕事の後片付けではありませんから、「労働時間」ではありません。 

 

<手待ち時間>

手待ち時間も、賃金支払の対象となる「労働時間」です。 

電話が鳴ったらすぐに対応することになっている電話当番(昼当番、休憩当番)や、一応「休憩時間」ではあるものの来客があればすぐに対応することになっているというのは、典型的な手待ち時間ですから「労働時間」です。電話で通話していた時間や、接客していた時間だけ、追加で休憩が与えられるのではなく、改めて休憩時間が与えられることになります。 

会社から貸与されている業務用のスマホは、休憩時間には電源を切ってロッカーにしまっておくルールにすれば良いのです。会社の指示により、そのスマホを持って食事に出かけ、取引先や社内の人から着信があれば対応するルールになっていれば、スマホを携帯している時間すべてが賃金支払対象の「労働時間」となってしまいます。 

 

<「労働時間」の誤解による不都合>

法的な意味での「労働時間」の一部に過ぎない、日常会話での「労働時間」のみに賃金が支払われていれば、不払賃金が発生してしまいます。 

「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に従って、正しく「労働時間」を把握しているつもりになっていても、それが日常会話での「労働時間」の把握であれば、労働安全衛生法違反となりかねません。 

残業規制の対象となる時間も、法的な意味での「労働時間」ですから、常識に従った「労働時間」で計算していたのでは、三六協定や労働基準法に違反してしまうことがあります。 

法令の中の用語を、常識に従い、日常会話での意味に解釈してしまうと、知らず識らずのうちに、法令違反を犯してしまうリスクがあるということです。

2024年10月2日

社会保険労務士 柳田 恵一

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