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【監修付き】給与計算の端数処理の方法と注意すべきポイント

人事情報お役立ちブログ(毎週更新) 給与計算関連

給与計算を行っていると、必ず端数処理が必要となります。これは給与計算ソフトによって、自動的に正しい処理が行われている場合には、あまり意識しないことです。しかし、この端数処理を手作業で行っていたり、Excelなどの表計算ソフトで関数を組んで計算していたりすれば、誤っている部分がないのか、常に不安が付きまとうことになります。

 

<給与計算では原則「端数処理できない」>

 

労働基準法には、「賃金全額払いの原則」が規定されていますので、給与計算で端数が生じた場合でも、原則として企業側に都合よく切り上げや切り捨てを行うことはできません。

 

労働基準法第24条第1項本文:賃金の支払い

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。

 

この条文を読んだだけでは、具体的なイメージがつかみにくいと思います。ありがちな失敗例を挙げて、ご説明させていただきます。

 

  • 労働時間の切り捨てパターン

 

労働契約によって、9時始業、18時終業、休憩時間1時間とされている従業員であれば、所定労働時間は8時間です。

この従業員が、ある日、8時52分に勤務を開始し、18時32分に勤務を終了したとします。この場合、労働時間を正しく計算すると、

18時32分 - 8時52分 = 9時間40分

ここから休憩時間の1時間を引いて、8時間40分が労働時間となります。

ありがちなのは、勤務開始時刻を9時に切り上げ、勤務終了時刻を18時30分に切り下げて、8時間30分を労働時間としてしまうパターンです。

 

  • 割増賃金の切り捨てパターン

 

時給1,250円のアルバイトについて、時間外割増賃金を計算する場合、

1,250円 × 1.25 = 1,562.5円

この0.5円を切り捨てて、時間単価を1,562円としてしまうと違法になります。

ただし、円未満を四捨五入することは、通達によって認められています。〔昭和63年3月14日基発150号通達〕

ですから、この例では、時間単価を1,563円としなければなりませんが、時給1,245円のアルバイトについて、

1,245円 × 1.25 = 1,556.25円

この円未満の0.25円を四捨五入して、時間単価を1,556円とするのは適法です。

 

<例外的に端数処理を行うタイミング>

 

端数処理が問題となるタイミングとしては、上記のように1日単位のものや、1か月単位のものがほとんどです。しかし、例外的に1週間単位のものもあります。この1週間単位というのは、金額ではなく、労働時間の集計で問題となります。

こうしたタイミングの違いというのも、給与計算を分かりにくくしている原因となっています。それぞれについて見ていきましょう。

 

  • 1日単位の端数処理

 

1日単位の端数処理としては、先ほどの「労働時間の切り捨てパターン」と「割増賃金の切り捨てパターン」の他に、より基本的な「1時間あたりの賃金額」の計算で問題となります。

いずれも、労働者に不利な端数処理は行えないというのが基本です。

「1時間あたりの賃金額」で問題となるのは、最低賃金法に示された最低賃金を下回っていないかということと、欠勤控除を行う場合の時間単価が不合理ではないかということです。

 

  • 1週間単位の端数処理

 

1週間単位の端数処理は、主に労働時間の集計で問題となります。

1日8時間の法定労働時間を超える労働に対しては、割増賃金の支払が必要です。このことは広く認識されていて、誤った処理が行われることは少ないでしょう。

しかし、1週40時間(原則)の法定労働時間を超える労働に対する割増賃金が計算されていない企業が、時々所轄の労働基準監督署に摘発されています。日曜日から土曜日までの7日間合計の労働時間が40時間を超えた場合には、これに対する割増賃金も計算しなければなりません。

1日単位で法定労働時間を超える労働時間の7日間合計と、1週間の法定労働時間を超える労働時間とを比較して、多い方の労働時間に対する割増賃金を支払わなければなりません。給与計算ソフトを導入していない企業では、ここの計算が行われていないケースが散見されます。

 

  • 1か月単位の端数処理

 

賃金の支払は、1か月に1回という企業が圧倒的多数です。ここでの端数処理は、通達によって行ってもよい処理がいくつか認められています。〔昭和63年3月14日基発150号通達〕

・1か月の賃金支払い額に100円未満の端数が生じた場合には、50円未満を切り捨てそれ以上を100円に切り上げることができます。

・1か月の賃金支払い額に1,000円未満の端数が生じた場合には、翌月の賃金支払い日に繰り越すことができます。

・1か月における時間外労働、休日労働、深夜業の各々の割増賃金の総額は、50銭未満の端数を切り捨てそれ以上を1円に切り上げることができます。

 

<端数処理の計算方法>

 

割増賃金の計算方法については、労働基準法と通達によって厳密に規定されています。一方で、欠勤控除については、これを行うか行わないか、どのように計算するかについて、合理性を保つ範囲で、企業独自のルールに任されています。

もっとも、こうした賃金の計算方法については、必ず就業規則に定めておかなければなりません。〔労働基準法第89条第2号〕

 

  • 割増賃金の計算

 

基本給月額30万円で手当などはなく、1か月の所定労働時間が172時間の従業員は、時間単価が、

300,000円 ÷ 172時間 = 1,744.186…円

就業規則により、これを円単位で切り上げて1,745円とすることも可能ですが、ここでは通達にしたがい、四捨五入して1,744円とします。

すると、割増賃金の時間単価は、

1,744円 × 1.25 = 2,180円

2,180円となります。

この従業員が、1か月で43時間23分残業したとすると、

23分は、23分 ÷ 60 = 0.3833…時間ですから。

時間外割増賃金の計算は、

2,180円 × 43.3833…時間 = 94,575.6666…円

四捨五入して、94,576円と計算されます。

もっとも、就業規則に定めれば、通達にしたがい時間外労働、休日労働、深夜業の各々の時間の合計に1時間未満の端数がある場合には、30分未満の端数を切り捨てそれ以上を1時間に切り上げることも可能です。〔昭和63年3月14日基発150号通達〕

この場合には、43時間23分のうち、23分が切り捨てられますから、43時間として計算します。

2,180円 × 43時間 = 93,740円

 

  • 1か月の賃金計算

 

上の例で、1か月の賃金は、

300,000円 + 94,576円 = 394,576円

394,576円を支給すればよいことになります。

ただし通達が、1か月の賃金支払い額に100円未満の端数が生じた場合には、50円未満を切り捨てそれ以上を100円に切り上げることができるとしていますので、就業規則に規定を置いて、394,600円を支給することもできます。

また通達が、1か月の賃金支払い額に1,000円未満の端数が生じた場合には、翌月の賃金支払い日に繰り越すことができるとしていますので、就業規則に規定を置いて、394,000円を支給し、端数の576円を翌月に繰り越して支払うことも可能です。〔昭和63年3月14日基発150号通達〕

 

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端数処理だけを見ても、現在の就業規則が通達に違反していないか、就業規則通りに給与計算ができているのかと、不安になるかもしれません。

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端数処理を意識することなく、就業規則に沿った給与計算も迅速に行うことができるのです。

2023年8月4日

社会保険労務士 柳田 恵一

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