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【監修付き】給与所得控除とは?適用条件や計算方法などをプロが解説します。

人事情報お役立ちブログ(毎週更新) 給与計算関連

「控除」という言葉の意味は単純で、「差し引く」ということにすぎません。この「控除」があって、多ければ多いほど、納税額が減ることになります。

そして、納税額を減らせる控除には、「所得控除」と「税額控除」があります。

「所得控除」は、課税対象となる所得金額からの控除です。

「税額控除」は、税金から直接控除するものです。

 

<給与所得控除とは>

 

給与所得控除とは、税金を計算するにあたって、給与所得の金額を確定するために、給与等の収入金額から差し引かれる金額です。

給与所得控除は、給与所得者の給与等の収入金額に応じて漏れなく適用されます。

 

<給与所得控除と所得控除の違い>

 

所得税法では所得控除の制度を設けています。

これは、所得税額を計算するときに、各納税者の個人的事情を加味しようとするためです。給与所得控除が、給与所得者の給与等の客観的な収入金額に応じて適用されるものであるのに対して、所得控除が各納税者の具体的な事情に応じて適用されるところに特徴があります。

 

それぞれの所得控除の要件に当てはまる場合には、各種所得の金額の合計額から各種所得控除の額の合計額を差し引きます。

所得控除の種類は次のとおりです。

 

【所得控除の種類】

雑損控除、医療費控除、社会保険料控除、 小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、 地震保険料控除、寄附金控除、障害者控除、寡婦控除、ひとり親控除、勤労学生控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、基礎控除

 

ただし、日本国内に住所などがない非居住者の場合の所得控除は、雑損控除、寄附金控除、基礎控除の3つです。

 

<給与所得控除と基礎控除の違い>

 

給与所得控除は、給与所得者に漏れなく適用されますから、ある意味基礎的な控除です。このために、基礎控除と混同されがちです。

しかし基礎控除は、上記の所得控除の一覧に入っていることからも分かるように、所得控除の一つです。

 

令和元年分以前の基礎控除の金額は、納税者本人の合計所得金額にかかわらず、一律38万円でしたが、令和5年現在、納税者本人の合計所得金額に応じてそれぞれ次のとおりとなります。

 

【基礎控除の金額】

納税者本人の合計所得金額 控除額
2,400万円以下 48万円
2,400万円超2,450万円以下 32万円
2,450万円超2,500万円以下 16万円
2,500万円超 0円

 

<給与所得控除の適用条件>

 

給与所得控除が適用されるのは、勤務先から給料や賞与を受け取っている人です。また、取締役などの役員が受け取る役員報酬も給与に含まれます。

 

  • 給与の範囲

 

給与には、基本給だけでなく、残業手当や休日出勤手当、その他、職務手当、資格手当、地域手当、扶養手当、住宅手当、精勤手当なども含まれます。

さらに、無償やこれに近い自己負担額で、社宅や福利厚生施設を利用したり、会社から物品その他の資産を譲り受けたりした場合にも、給与として扱われます。

 

  • 副業・兼業のある人

 

会社からの給与の他に、副業や兼業で収入を得ている場合でも、給与所得控除が適用されます。ただし、複数の支払者から給与を受け取っている人の場合、それぞれの給与に対して給与所得控除が適用されるのではありません。

この場合、本業の会社の給与所得を基準として給与所得控除が適用されます。さらに、確定申告の際に、副業・兼業による給与収入を合算して、給与所得控除が適用されます。

 

  • 年の途中で独立開業した人

 

年の途中で会社を退職し開業した場合でも、その年に給与収入があれば、給与所得控除が適用されます。

この場合、退職した年度分の確定申告で、給与所得控除が適用されます。しかし、退職の翌年以降は、給与所得がありませんので、給与所得控除が適用されません。

 

  • 給与所得控除がない人

 

給与所得がない人には、給与所得控除が適用されません。

自営業者はもちろん対象外ですが、業務委託やフリーランスなども、取引先から給与ではなく報酬を受け取っていますから、対象外となります。

これらの人には、給与所得控除の適用がない代わりに、必要経費の制度が適用されることになります。

 

<給与所得控除の計算方法>

 

給与所得の金額は、給与等の収入金額から給与所得控除額を差し引いて算出します。

 

  • 給与等の収入金額が660万円以上の場合

 

給与所得控除額は、給与等の収入金額が660万円以上の場合、給与等の収入金額に応じて、次のようになります。

 

【給与所得控除の金額】

給与等の収入金額
(給与所得の源泉徴収票の支払金額)
給与所得控除額
1,625,000円まで 550,000円
1,625,001円から 1,800,000円まで 収入金額×40%-100,000円
1,800,001円から 3,600,000円まで 収入金額×30%+80,000円
3,600,001円から 6,600,000円まで 収入金額×20%+440,000円
6,600,001円から 8,500,000円まで 収入金額×10%+1,100,000円
8,500,001円以上 1,950,000円(上限)

 

同一年分の給与所得の源泉徴収票が2枚以上ある場合には、それらの支払金額の合計額により上記の表を適用します。

 

上記の表が正式なものですが、給与等の収入金額が660万円以上の場合については、国税庁から便利な速算表が公表されています。

 

給与等の収入金額
(給与所得の源泉徴収票の支払金額)
給与所得の金額
6,600,000円以上 8,500,000円未満 収入金額×90%-1,100,000円
8,500,000円以上 収入金額-1,950,000円

 

この速算表を使用すれば、より簡単に算出することができます。

 

  • 給与等の収入金額が660万円未満の場合

 

給与等の収入金額が660万円未満の場合には、上記の表にかかわらず、所得税法別表第五(年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表)により給与所得の金額を求めます。

つまり、給与等の収入金額から給与所得控除額を差し引いて算出するのではなく、直接、給与所得を確認します。

しかし、所得税法の「別表第五 年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表(第二十八条、第百九十条関係)」は、非常に大きな表ですので、リンクを貼らせていただきます。必要に応じてご参照ください。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=340AC0000000033#5723

 

<経費を控除できる特定支出控除>

 

給与所得者については、給与所得控除とは別に、特定支出控除が認められています。

これは、給与所得者が次の1から7の特定支出をした場合、その年の特定支出の額の合計額が、「特定支出控除額の適用判定の基準となる金額」を超えるときは、確定申告によりその超える部分の金額を給与所得控除後の所得金額から差し引くことができる制度です。

ここで、特定支出とは、給与所得者が支出する次に掲げる支出のうち一定のものです。

 

【特定支出】

1 一般の通勤者として通常必要であると認められる通勤のための支出(通勤費)

 

2 勤務する場所を離れて職務を遂行するための直接必要な旅行のために通常必要な支出(職務上の旅費)

 

3 転勤に伴う転居のために通常必要であると認められる支出(転居費)

 

4 職務に直接必要な技術や知識を得ることを目的として研修を受けるための支出(研修費)

 

5 職務に直接必要な資格を取得するための支出(資格取得費)

 

(平成25年分以後は、弁護士、公認会計士、税理士などの資格取得費も特定支出の対象となります。)

 

6 単身赴任などの場合で、その者の勤務地または居所と自宅の間の旅行のために通常必要な支出(帰宅旅費)

 

7 次に掲げる支出(その支出の額の合計額が65万円を超える場合には、65万円までの支出に限ります。)で、その支出がその者の職務の遂行に直接必要なものとして給与等の支払者より証明がされたもの (勤務必要経費)

 

(1)書籍、定期刊行物その他の図書で職務に関連するものを購入するための費用(図書費)

 

(2)制服、事務服、作業服その他の勤務場所において着用することが必要とされる衣服を購入するための費用(衣服費)

 

(3)交際費、接待費その他の費用で、給与等の支払者の得意先、仕入先その他職務上関係のある者に対する接待、供応、贈答その他これらに類する行為のための支出(交際費等)

 

ただし、これらの7つの特定支出は、いずれも給与の支払者またはキャリアコンサルタントが証明したものに限られます。

(キャリアコンサルタントが証明することで特定支出の対象となるのは、令和5年以後の4または5の支出で、教育訓練に係る部分に限ります)

 

この特定支出控除を受けるためには、確定申告を行う必要があるのですが、その際、特定支出に関する明細書と給与の支払者またはキャリアコンサルタントの証明書を、申告書に添付するとともに、搭乗・乗車・乗船に関する証明書や支出した金額を証する書類を申告書に添付または申告書を提出する際に提示する必要があります。

 

また、給与の支払者から補てんされる部分があり、かつ、その補てんされる部分に所得税が課税されていないときは、その補てんされる部分および教育訓練給付金、母子(父子)家庭自立支援教育訓練給付金が支給される部分がある場合の「支給される部分」は特定支出から除かれます。

 

<Workcloud(ワーククラウド)システムなら>

 

今回は、給与所得控除について解説させていただきました。

しかしこれは、年末調整の中のほんの一部分に過ぎません。

全体像を把握していただくため、「【監修付き】年末調整で必要な書類は?書き方やスケジュールも解説」も、ご参照いただけたらと思います。

 

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STEP1 従業員が基本情報を入力

従業員ごとにマイページを発行。従業員は基本情報を入力していくだけで、提出ができます。

 

STEP2 人事・労務が登録情報を確認

従業員が入力した情報の確認を行います。不備や未提出のステータスの絞り込みや一斉修正依頼メールの送信が可能です

 

STEP3 人事・労務が承認

入力内容が確認出来たら、承認ボタンを押して完了

 

細かなデータの確認や源泉徴収票の自動作成ができ、提出も電子申告が可能です。自動計算だけではなく、源泉徴収票、給与支払報告書などその他の業務はデイフォースが対応するため、従来の年末調整とは比較にならない効率化が可能になります。

 

2023年12月15日

社会保険労務士 柳田 恵一

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