【監修付き】残業代の計算方法は?仕組みや割増率なども解説
<残業代とは>
まず残業とは、就業規則や個別の労働契約によって決められた所定労働時間を超えて勤務すること、または超えた勤務時間をいいます。始業時刻が午前9時、休憩1時間、終業時刻が午後5時で、所定労働時間が7時間の従業員が、午前9時から午後7時まで勤務し、休憩を1時間取った場合には、勤務時間が9時間となりますから、2時間の残業が発生します。
また、就業規則や個別の労働契約によって決められた所定休日に勤務した場合には、「休日出勤」と呼ばれますが、これも残業の一種です。ただし、その休日出勤が、週1日または4週4日の法定休日の勤務であれば、法定休日出勤となり、一般の残業時間とは別計算になります。
残業代というのは、これらの残業に対して支払われる賃金の総称です。
<残業の種類>
一口に残業と言っても、通常の賃金の支払対象となる法定内残業と、割増賃金の支払対象となる法定外残業とに区分されます。
- 法定内残業
法定内残業(法内残業)は、就業規則や個別の労働契約によって決められた所定労働時間を超えて勤務しているものの、労働基準法で定められた法定労働時間の範囲内で行われた残業のことです。法定内残業に対しては、通常の賃金を支払えばよく、特別に就業規則や個別の労働契約などで定められていない限り、割増賃金の支払は発生しません。
先ほどの例で考えてみましょう。始業時刻が午前9時、休憩1時間、終業時刻が午後5時で、所定労働時間が7時間の従業員が、午前9時から午後7時まで勤務し、休憩を1時間取った場合には、勤務時間が9時間となりますから、2時間の残業が発生します。このうち、午後5時から午後6時までの1時間が法定内残業となります。
- 法定外残業
法定外残業(時間外労働)とは、労働基準法で定められた法定労働時間(原則1日8時間、1週40時間)を超えて行われた残業のことをいいます。法定外残業に対しては、割増賃金を支払わなければなりません。
先ほどの例で考えてみましょう。始業時刻が午前9時、休憩1時間、終業時刻が午後5時で、所定労働時間が7時間の従業員が、午前9時から午後7時まで勤務し、休憩を1時間取った場合には、勤務時間が9時間となりますから、2時間の残業が発生します。このうち、午後6時から午後7時までの1時間が法定外残業となります。
<残業における賃金の割増率とは>
賃金を割増で支払わなければならない場合と、その場合の割増率については、労働基準法第37条に定められています。
種類 | 支払う条件 | 割増率 |
時間外
(残業手当) |
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えたとき | 25%以上 |
時間外労働が限度時間(1か月45時間、1年360時間等)を超えたとき | 25%以上 | |
時間外労働が1か月60時間を超えたとき | 50%以上 | |
休日
(休日手当) |
法定休日(週1日)に勤務させたとき | 35%以上 |
深夜
(深夜手当) |
22時から翌5時までの間に勤務させたとき | 25%以上 |
労働基準法に定められた割増率の基準は最低限のものですから、これを下回ることはできませんが、上回る割増率を就業規則に定めることは可能です。
また、法定内残業は割増賃金とする必要がありませんが、割増率を就業規則に定めることは可能です。
<残業代の計算方法>
割増賃金の基本的な計算方法は、次の計算式で示されます。〔労働基準法第37条第5項〕
1時間あたりの基本賃金(時間単価)×(1+割増率)× 労働時間 |
この中の「1時間あたりの基本賃金」は、時給制の場合には、原則として時給額そのものとなります。
しかし、月給制の場合には、計算が少し複雑となります。
まず、「計算の基礎となる月給」には、次のものが含まれません。〔労働基準法施行規則第21条〕
・家族手当・扶養手当・子女教育手当
(ただし、家族数によらず一定額を支給するものは月給に含まれます)
・通勤手当
(ただし、交通費や通勤距離によらず一定額を支給するものは月給に含まれます)
・別居手当・単身赴任手当
・住宅手当
(家賃やローンの有無によらず一定額を支給するものは月給に含まれます)
・臨時の手当(結婚手当、出産手当、大入り袋など)
そして、月給制の場合「1時間あたりの基本賃金」は、次の計算式で示されます。
計算の基礎となる月給÷1年間における1か月平均所定労働時間 |
各月の所定労働時間は、カレンダーによる影響などで増減してしまうことがあります。これでは、「1時間あたりの基本賃金」が毎月変動してしまい、賃金計算が複雑になってしまいます。これを避けるため、「1年間における1か月平均所定労働時間」を計算に使うことになっているのです。
たとえば、年間所定休日が122日で、1日の所定労働時間が8時間であれば、1年間の所定労働時間は、次の計算で求められます。
( 365 - 122 )× 8時間 = 1,944時間
この場合、1か月平均所定労働時間を計算すると、次のようになります。
1,944時間 ÷ 12か月 = 162時間
- 残業時間の集計方法
残業代の計算を行うためには、割増率の違いを意識しながら、残業時間を明確に区分して集計する必要があります。どのように区分するかは、企業によっても異なりますが、一般的には次のように区分して、残業時間を集計する必要があります。
・法定内残業時間(所定労働時間外で法定労働時間内の時間)
・法定外残業時間(1日8時間、週40時間を超えて労働させた時間)
・深夜残業時間(22時~翌5時の間に残業させた時間)
・休日労働(法定休日に労働させた時間)
・休日の深夜労働(法定休日の22時~5時に労働させた時間)
・時間外労働時間が月45時間を超えた時間(通常の時間外労働と異なる割増率を定めている場合に必要)
・法定外残業時間が月60時間を超えた時間
・法定外残業時間が60時間を超え、深夜残業させた時間
上の中に、休日労働の法定外残業時間はありません。法定休日の労働は、8時間を超えても割増率は35%で計算されるからです。
- 残業代の計算方法
さて、改めて残業代の計算方法ですが、上記の労働時間の区分ごとに、先ほどの計算式に当てはめて、それぞれを計算します。
1時間あたりの基本賃金(時間単価)×(1+割増率)× 労働時間 |
ここで、法定内残業時間に割増は付かないこと、割増が複数重なった場合には、掛け算ではなく、足し算で計算される点に注意が必要です。
たとえば深夜残業の場合、25%割増の25%割増となるのではなく、合計して50%割増となります。
<残業代計算の具体例>
それでは、給与形態別に残業代計算の具体例を見てみましょう。
- 年棒制の場合
「年棒制」と言っても、給与の決定方法を言っているにすぎません。プロ野球の選手ではないですから、完全に労働基準法が適用されます。その証拠に、労働基準法には、年俸制についての例外規定はありません。
年俸制では、原則として、1時間あたりの基本賃金は、次の計算式で求めることができます。
1時間あたりの基本賃金(時間単価)
= 賞与を除く年俸額 ÷ 12か月 ÷ 月平均所定労働時間 |
しかし、労働基準法のいう「賞与」は、予め金額が確定していないものをいいます。ですから、年俸額を確定した金額で定め、年俸額÷16を毎月支給し、残りを夏冬の賞与として支給するような場合には、1時間あたりの基本賃金は、次の計算式で求められることになります。
1時間あたりの基本賃金(時間単価)
= 賞与を含む年俸額 ÷ 12か月 ÷ 月平均所定労働時間 |
参考:平成12年3月8日発収第78号通達
割増賃金の基礎となる賃金に算入しない賃金の1つである「賞与」とは、その支給額が予め確定されていないものをいい、支給が確定しているものは「賞与」とみなされないとしているので、年俸制で毎月払い部分と賞与部分を合計して予め年俸額が確定している場合の賞与部分は上記「賞与」に該当しない。したがって、賞与部分を含めて当該確定した年俸額を算定の基礎として割増賃金を支払う必要がある。
よって、決定された年俸額の12分の1を月における所定労働時間数(月によって異なる場合には、1年間における1か月平均所定労働時間数)で除した金額を基礎額とした割増賃金の支払いを要し、就業規則で定めた計算方法による支払額では不足するときは、労働基準法第37条違反として取り扱うこととする。 |
- 月給制の場合
月給制の場合については、<残業代の計算方法>のところで見たとおりです。
たとえば、年間所定休日が122日で、1日の所定労働時間が8時間であれば、1年間の所定労働時間は、次の計算で求められます。
( 365 - 122 )× 8時間 = 1,944時間
この場合、1か月平均所定労働時間を計算すると、次のようになります。
1,944時間 ÷ 12か月 = 162時間
計算の基礎となる月給が324,000円であれば、1時間あたりの基本賃金(時間単価)は、324,000円 ÷ 162時間ですから、2,000円となります。
- 日給制の場合
日給制の場合には、1日単位で、所定労働時間に対する賃金が決まっています。
したがって、1時間あたりの基本賃金は、次の計算式で求められることになります。
1時間あたりの基本賃金(時間単価)= 日給 ÷ 1日の所定労働時間 |
- 時給制の場合
時給制の場合は、時給額がそのまま1時間あたりの基本賃金(時間単価)となるのが原則です。
ただし、これとは別に、1か月単位で手当を支給している場合には、<残業代の計算方法>で月給制について述べたことが、時給制にもあてはまります。つまり、手当によっては、1時間あたりの基本賃金(時間単価)に反映されるものがあるということです。
さらに、「日曜日は時給100円増し」のように、特定の日に時給が変わる場合には、その日の残業代計算での、1時間あたりの基本賃金(時間単価)は、その日の時給を使って計算することになります。
- 歩合給の場合
歩合給の場合は、固定給部分と歩合給部分を分けて計算する必要があります。具体的な計算式は次の通りです。
固定給の1時間あたりの基本賃金 = 月給額 ÷ 1か月の所定労働時間
歩合給の1時間あたりの基本賃金 = 歩合給額 ÷ 残業を含めた総労働時間 |
歩合給の残業代計算での割増率は、固定給部分に対しては通常通り1.25を掛けますが、歩合給部分には0.25を掛けて計算します。
これは、固定給部分の場合、時間外労働分の時間単価は固定給に含まれていないため、時間単価に相当する部分も支払う必要があり、時間外労働をさせた場合、通常の労働時間の時間単価に1.25を掛けて時間外労働の賃金の時間単価を算出しなければならないからです。
一方で、歩合給部分の場合は、時間を延長したことによって成果が上がっているという面があり、時間単価に相当する部分は既に歩合給に含まれていると考えられることから、割増賃金(残業代)は25%を掛ければよいとされているのです。
<その他の勤務形態の計算方法>
給与の支払形態とは別に、勤務形態の違いによっても、残業代の計算のうえで配慮すべきことがいくつかあります。
- フレックスタイム制の残業代計算
フレックスタイム制では、労使協定により3か月以内の「清算期間」が設けられ、その期間内で社員が労働すべき基準労働時間は、平均して1週間の労働時間が原則40時間以内とされます。
あらかじめ定められた基準労働時間を超えた場合には、その超えた分について残業代が発生することになります。
清算期間が1か月を超えるフレックスタイム制の場合に、1か月毎の労働時間が週平均50時間を超えた場合には、清算期間の満了を待たず、その月の分の残業代を計算し支給しなければなりません。
- 裁量労働制(みなし労働時間制)の残業代計算
裁量労働制は、始業と終業の時刻を各従業員に委ね、一定の時間分労働があったと「みなす」制度です。残業についても、一定の時間だけ残業があったとみなして、毎月定額の残業代を支給します。
しかし、この場合でも、深夜労働と法定休日出勤に対する割増賃金の計算と支払は必要となります。
- 1箇月単位の変形労働時間制の残業代計算
1箇月単位の変形労働時間制は、書面による労使協定や就業規則その他これに準ずるもので定めることにより、導入できるものですから、残業代の計算についても、書面による労使協定や就業規則その他これに準ずるものにしたがって行うことになります。
1箇月単位の変形労働時間制でも、労働時間が法定労働時間を超える場合には、その超える時間について割増賃金を支払うことが必要です。
ア 1日の法定時間外労働
労使協定または就業規則等で、1日8時間を超える時間を定めた日はその時間、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間
イ 1週の法定時間外労働
労使協定または就業規則等で、1週40時間を超える時間を定めた週はその時間、それ以外の週は40時間を超えて労働した時間(アで時間外労働となる時間を除く)
ウ 対象期間の法定時間外労働
対象期間の法定労働時間総枠(40時間 × 対象期間の暦日数 ÷ 7日)を超えて労働した時間(アまたはイで時間外労働となる時間を除く)
- 1年単位の変形労働時間制の残業代計算
1年単位の変形労働時間制を採用する場合には、労使協定を締結し、1箇月を超え1年以内の一定期間を平均し1週間の労働時間を40時間以下の範囲にすることなどの条件を満たしたうえで所轄労働基準監督署長に届け出ることが必要です。
また、1年単位の変形労働時間制を採用する旨を就業規則に記載したうえで、これを所轄労働基準監督署長に届け出る必要があります。
残業代の計算についても、労使協定や就業規則したがって行うことになります。
1年単位の変形労働時間制でも、労働時間が法定労働時間を超える場合には、その超える時間について割増賃金を支払うことが必要です。
ア 1日の法定時間外労働
労使協定で1日8時間を超える時間を定めた日はその時間、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間
イ 1週の法定時間外労働
労使協定で、1週40時間を超える時間を定めた週はその時間、それ以外の週は40時間を超えて労働した時間(アで時間外労働となる時間を除く)
ウ 対象期間の法定時間外労働
対象期間の法定労働時間総枠(40時間 × 対象期間の暦日数 ÷ 7日)を超えて労働した時間(アまたはイで時間外労働となる時間を除く)
- 管理職の残業代計算
労働基準法第41条第2号に「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」についての規定があって、この規定に該当する者を、日常用語では「管理監督者」と呼んでいます。
労働基準法の規定する「管理監督者」は、管理職や役職者とは別の概念です。ですから、労働基準法の規定する「管理監督者」の定義を十分に吟味することなく、安易に一定の管理職や役職者を残業代支払の対象者から外してしまうことは、未払賃金の発生リスクが高いことになります。
また、労働基準法の規定する「管理監督者」であっても、22時~翌5時の間に残業させた時間については、深夜手当の支給が必要ですから注意しましょう。
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ここまで、残業代の仕組みや割増率などを含め、基本的な計算方法について、簡単に見てきました。これだけでも、十分に複雑だと感じる方も多いのではないでしょうか。あるいは、残業代の計算に不安を覚えた部分があったかも知れません。
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2023年9月25日
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