年次有給休暇を取得させる会社側のメリット
<年次有給休暇の本来の趣旨>
労働基準法には、なぜ年次有給休暇の付与が法定されているのか、なぜ年次有給休暇の最低日数が法定されているのか、その趣旨とするところは何なのかなどについて説明がありません。
しかし厚生労働省は、労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るため、また、ゆとりある生活の実現にも資するという位置づけから、法定休日のほかに毎年一定日数の有給休暇を与える制度だと説明しています。
また、年次有給休暇の法的性格について、最高裁判所は「年次有給休暇の権利は、労働者が客観的要件を充足することによって、法律上当然に発生する権利であり、労働者が年次有給休暇の請求をしてはじめて生ずるものではない」としています(昭和48年3月2日白石営林署最高裁判決)。
<不測の事態への対応準備>
令和2(2020)年2月以降、国内に新型コロナウイルス感染症が拡大していき、ほとんどの企業では多くの欠勤が発生しています。このような場合でも、業務の停滞などによって困らないようにしようという動きも盛んになって、テレワークの急拡大なども見られました。しかし、喉元過ぎれば熱さ忘れるということで、テレワークも減少傾向にあります。
今後も、インフルエンザなどの感染症拡大や、自然災害などによる同時多発的欠勤も想定されます。やはり、すべての業務のマニュアル作成と公開、全従業員の多機能化、メイン担当者とサブ担当者の設定など、備えが必要であることは明らかです。
これらの備えに本腰を入れて取り組むためにも、また備えが有効であることの実証のためにも、年次有給休暇の計画的な取得を活用することができるでしょう。
<不正防止の効果>
金融機関では、金融庁の指導により、職務離脱の制度が運用されています。これは、事前予告なしに、1週間の休暇を命ずる制度です。この休暇中に、その従業員の机やパソコンの中のチェック、取引先との面談などを行い、不正がないことを確認するものです。
一般の企業では、そこまでする必要を感じないかもしれません。しかし、年次有給休暇の取得を拒否し、たびたび休日出勤をしている従業員が、インフルエンザで数日休んだことで、他の従業員が業務を代行しようとして、不正が暴かれたという事件は数多く報道されています。
横領も多いのですが、中には会社のパソコンや顧客データを利用して、個人的に事業を営んでいたというものまであります。
年次有給休暇の取得を嫌がり、進んで休日出勤をしていれば、職務熱心な社員と見られ、チェックが甘くなるリスクもあります。こうした社員ほど、年次有給休暇を取得させる必要があるかもしれません。
2025年4月9日
社会保険労務士 柳田 恵一
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