急病のとき当日に年次有給休暇を取得する権利
<就業規則の規定>
例えば、就業規則に次のような規定があって、適正に運用されているのであれば、急病のとき当日に年次有給休暇を取得するのは問題ありません。
年次有給休暇は、取得する日の◯日前までに「有給休暇取得届」を上長に提出することによって取得する。
私傷病その他やむを得ない理由がある場合に限り、上長に電話もしくはメールで速やかに連絡し、後日出勤時に遅滞なく「有給休暇取得届」を提出することにより、欠勤を年次有給休暇に振り替えることができる。 |
<指定権と変更権との調整>
この規定の中の「取得する日の◯日前までに」というのは、労働者の時季指定権を制限しています。年次有給休暇の取得日の指定が遅れると、労働者は自由な指定ができなくなります。
一方で、「取得する日の◯日前までに」時季指定があれば、特別な事情がない限り、使用者はこれを拒否できません。つまり、期限を守った時季指定に対しては、使用者が時季変更権を放棄していることになります。
これは、労働者の時季指定権と使用者の時季変更権との明確な基準による調整と見ることができます。ただし、「◯日前」というのが「30日前」など長期にわたる場合には、不当な時季指定権の制限であり、時季変更権の濫用となって無効と解されます。
こうした規定が就業規則になく、その時々の事情に応じて、労使が話し合いながら調整することも可能です。しかし、これでは基準が不明確で不満が出やすいでしょう。
<条件付き時季変更権の放棄>
当日に年次有給休暇の取得を申し出た場合、使用者は時季変更をする余地がありませんから、明らかに時季変更権の侵害であり、時季指定権の濫用となります。ですから、こうした年次有給休暇の取得は認める必要がないとされています。
しかし、厳格な条件をクリアした場合には、使用者が時季変更権を放棄し、労働者に事後の時季指定を認めるというルールも、労働基準法その他の法令に違反せず有効となります。
先ほどの就業規則では、次の3つの条件をクリアすれば、事後の時季指定が認められることになります。
・私傷病その他やむを得ない理由がある場合であること
・上長に電話もしくはメールで速やかに連絡したこと ・後日出勤時に遅滞なく「有給休暇取得届」を提出したこと |
「その他やむを得ない理由」というのは、やや曖昧ですから、トラブルとなる可能性がなくはないですが、「私傷病」については明確ですから、ここの部分は運用しやすいでしょう。
そもそも、年次有給休暇は理由を問わず使える権利であることを考えれば、「私傷病」の内容を限定する必要もありません。
いずれにせよ、こうした規定のある会社では、労働基準法を超える恩恵的な制度であることの説明は必要でしょう。また反対に、こうした規定のない会社では、決して法令違反ではないことの説明が必要だといえます。
【労働基準法第39条第5項:時季指定権と時季変更権】
使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。 |
2025年4月9日
社会保険労務士 柳田 恵一
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