被用者保険の適用拡大のメリット
<社会保険適用拡大特設サイト>
厚生労働省は、社会保険適用拡大が法定された当時から、特設サイトを設けて、人事・労務管理者向けの情報と、従業員向けの情報を提供しています。
法改正による社会保険適用拡大も最終段階に入り、令和6(2024)年10月からは加入者が51人以上の企業で社会保険の適用が拡大されます。
さらに、事業規模の制限を撤廃し、すべての企業で社会保険の適用を拡大する方向で検討されています。
こうした中で、新たに社会保険に加入することとなる従業員の皆さんからは、保険料負担などによる手取り収入の減少というデメリットばかりが強く認識され、健康保険や厚生年金保険の保険としてのメリットについては、あまり認識されていません。
この実態を踏まえ、社会保険適用拡大特設サイトには、社会保険に加入することのメリットを説明する内容が追加されています。
<老齢年金の充実>
厚生年金保険に加入することで、1階(基礎年金部分)に加えて2階(報酬比例部分)が上乗せされます。
社会保険適用拡大で、標準報酬月額が8万8千円と仮定した場合、月々の保険料は8,100円で、加入期間1年につき、将来受け取る老齢厚生年金(報酬比例部分)が月額で440円増額されます。
ただし、配偶者の扶養に入り第3号被保険者であれば、国民年金の保険料は支払っていませんので、厚生年金保険への加入で月々の保険料8,100円が丸々負担増となります。
一方で、独身のフリーターの場合には、国民年金保険料が月額17,000円程度であったところ、厚生年金保険料8,100円へと負担が減るので、問題ないように思えます。
ところが実態としては、国民年金保険料を納付していない若者も多く、厚生年金保険料8,100円が丸々負担増と感じるケースは多いのです。
<健康保険の充実>
健康保険に加入すると、出産手当金と傷病手当金が新たなメリットとなります。
加入者が出産のために会社を休み、報酬を受けられないときに、産前42日・産後56日までの間、出産手当金として給与の2/3が支給されます。
また、業務外の事由による療養のため働くことができないときは、その働くことができなくなった日から起算して3日を経過した日から働くことができない期間(最長通算1年6か月)、傷病手当金として給与の2/3が支給されます。
若い女性が出産手当金を受給しやすく、高齢者が傷病手当金を受給しやすいという傾向があります。
結局、若い男性がこれらの給付を受けるチャンスは少ないことになり、メリットを感じないということになります。
<メリットを強調しない考え方>
このように見てくると、社会保険加入のメリットを強調することは、若い男性にとって、必ずしも説得力のある内容とはならないことが分かります。
むしろ、事業規模の制限を撤廃し、すべての企業で社会保険の適用を拡大する方向で検討されている現状を素直に捉えれば、社会保険への加入は働く者の義務だと考えるのが素直です。
そして、若い世代が高齢者の生活を支え、次世代の育成を支える、公的な社会貢献の仕組みだと捉えるのが実情に適合するでしょう。
今の若い世代が高齢者となった時、その時点での若い世代から支えてもらうという世代間での支え合いの制度だという、元々の趣旨からの説明のほうが説得力があるのではないでしょうか。
2024年8月23日
社会保険労務士 柳田 恵一
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