確定給付企業年金(DB)と確定拠出年金(DC)の違いは?プロが解説します。
確定給付企業年金と確定拠出年金は、どちらも企業年金の一種です。公的年金に加えて、従業員の退職後の収入を補う目的で設けられています。
企業が従業員に対して掛金を拠出し、その掛金を運用して年金資産を形成する点では共通しています。
しかし、両者には大きな違いがあります。
確定給付企業年金(DB)の特徴
確定給付企業年金とは、従業員が受け取る年金給付額があらかじめ約束されている企業年金制度です。会社が運用の責任を負い、運用結果が悪ければ、企業が不足分を穴埋めします。
確定給付企業年金の特徴としては、次の点が挙げられます。
・従業員が受け取る年金給付額が、あらかじめ約束されています。「確定給付」というのは、この意味です。
・企業が掛金の拠出、運用、管理、給付のすべての責任を負います。
・掛金(かけきん)は原則として企業が負担しますが、本人の同意があれば、半分まで本人に負担させることもできます。「掛金」は、国民年金や厚生年金保険の「保険料」に相当します。
・給付は原則として、終身または5年以上の有期年金となります。
・企業は最低積立基準額や責任準備額を満たすように、掛金を見直す必要があります。
・企業の掛金分は、全額損金算入が可能であり、税制上の優遇措置があります。
確定給付企業年金には「基金型」と「規約型」の2つのタイプがあります。
●基金型の特徴
基金型は、企業が特別法人の企業年金基金を設立し、その基金が年金資産の管理、運用、給付を行うものです。企業年金基金の設立には、厚生労働大臣の認可を受ける必要があります。原則として加入者が300人以上でなければなりません。
基金型は、基金が独立した法人となるため、企業の経営状況に影響されにくく、中立的な制度運営ができます。理事会や代議員の設置が必要で、労働組合が制度運用に関与できます
名称は、厚生年金基金と似ていますが、国からの代行部分がありません。
●規約型の特徴
規約型は、企業が信託銀行や生命保険会社などの受託機関と契約し、その受託機関が年金資産の管理、運用、給付を行うものです。厚生労働大臣の承認を受けた年金規約を作成するだけで済みます。加入者の人数に制限はありません。
規約型は、企業が制度運営に関与するため、企業の責任が大きくなります。理事会や代議員の設置が不要で、労働組合が制度運用に関与しにくくなります。
確定拠出年金(DC)の特徴
確定拠出年金とは、拠出された掛金とその運用益との合計額をもとに、将来の給付額が決定する年金制度です。
確定拠出年金の特徴としては、次の点が挙げられます。
・加入者等自身が運用商品を選んで運用することができます。ただし、選べる運用商品は、会社によって異なります。
・運用の途中で運用商品を変更することができます。
・離転職時には、他の制度へ年金資産を持ち運ぶことができます。
・給付については、一時金や年金の選択ができます。
・税制上の優遇措置があります。
確定拠出年金には、「企業型」と「個人型」の2つのタイプがあります。
●企業型の特徴
企業型は、会社が掛金を拠出し、従業員が運用する制度です。拠出には限度額があります。従業員が、個人で掛金の追加をすることもできます。企業型確定拠出年金を導入している会社の従業員が対象です。
掛金の拠出額や運用商品のラインナップが会社によって決められます。掛金や運用収益が非課税で、事業主掛金は所得とみなされません。
離転職時に他の制度へ年金資産を持ち運ぶことができます。
給付については、一時金や年金の選択ができますが、年金規約によって制限される場合があります。年金給付は、原則として、5年以上20年以下の期間となります。
●個人型の特徴
個人型は、個人が掛金を拠出し、運用する制度です。
掛金の拠出額や運用商品の選択が個人によって決められます。掛金が所得控除でき、運用収益が非課税です。
転職先に企業型があれば移換することができます。移換というのは、積立てられた資産を他の運営管理機関に移すことをいいます。
給付については、一時金や年金の選択ができます。
確定給付企業年金と確定拠出年金の主な違い
確定給付企業年金は、従業員が受取る年金給付額があらかじめ約束されている制度です。
確定拠出年金は、拠出された掛金とその運用益との合計額をもとに、将来の給付額が決定する制度です。
安定した給付を考えるか、リスクを取って多くの給付を目指すかというのが、基本的に異なります。
●資金管理とリスク
確定給付企業年金では、企業が年金資産の管理、運用、給付を行います。企業は運用の責任を負い、運用結果が悪ければ、不足分を穴埋めしなければなりません。企業が不足分を穴埋めしきれなくなるというリスクがあり、従業員の給与や賞与への影響も懸念されます。
確定拠出年金では、従業員が年金資産の管理、運用、給付を行います。従業員は運用商品を自由に選べますが、運用成果によって給付額が変動します。企業はマイナス分を補てんする義務はありません。つまり、運用のリスクは従業員が抱えるということになります。
●運用成果と受取額
確定給付企業年金では、従業員が退職時に受取る年金給付額はあらかじめ約束されています。そのため、運用成果が良くても悪くても、給付額は変わりません。
しかし、運用成果が悪い場合には、企業が不足分を穴埋めする必要があります。そのため、企業にとっては運用リスクが高くなります。
逆に、運用成果が良い場合には、企業が余剰分を回収することができます。そのため、企業にとっては運用メリットがあります。
もっとも、運用成果が良くても、企業が回収できるのは、過去に穴埋めした分や掛金の見直しによる増額分など、限られたケースに限られます。
確定拠出年金は、拠出された掛金とその運用益との合計額をもとに、将来の給付額が決定する制度です。運用成果によって給付額が変動します。
企業がマイナス分を補てんする義務もありません。
確定拠出年金の受取額は、年金または一時金として受け取ることができます。これは所得税や住民税の対象となりますが、年金として受取る場合は、公的年金等控除の対象となり、一時金として受取る場合は、退職所得控除の対象となります。
●雇用主と従業員の責任と役割
雇用主と従業員の責任と役割は、確定給付企業年金と確定拠出年金とで、次のように異なっています。
確定給付企業年金の場合
雇用主は、従業員に対して年金給付額をあらかじめ約束し、掛金の拠出、資産の管理・運用、給付の実施などのすべての責任を負います。
年金資産の運用状況や財務状況などについて、加入者や受給者に対して定期的に情報開示を行わなければなりません。
運用成果が悪くても給付額を減らすことはできません。運用不足が生じた場合は、雇用主が不足分を穴埋めしなければなりません。
従業員は、加入者として掛金を拠出することができますが、その範囲は掛金の2分の1を上回らないこととされています。
退職時に老齢給付や脱退一時金を受けることができます。老齢給付は、60歳以上70歳以下の規約で定める年齢に達したときから支給されます。
従業員は、基金型の場合は理事や代議員として、規約型の場合は労働組合として、制度運営に関与することができます。
確定拠出年金の場合
雇用主は、企業型確定拠出年金を実施する場合、掛金の拠出や加入手続を行う必要があります。また、加入者に対して必要な情報開示や投資教育を行わなければなりません。しかし、運用リスクを負わないため、運用成果が悪くても不足分を穴埋めする義務はありません。ただし、掛金の拠出額や運用商品のラインナップについては、労使協定や年金規約で定める必要があります。
従業員は、加入者として掛金を拠出し、運用商品を選択し、運用を行うことができます。運用成果によって給付額が変動するため、自己責任で運用する必要があります。従業員は、退職時に老齢給付や脱退一時金を受けることができます。老齢給付は、60歳以上であれば年金として受け取ることができますが、一時金として受け取ることも可能です。4
確定給付企業年金(DB)のメリットとデメリット
確定給付企業年金の特徴から、メリットとデメリットをまとめると次のようになります。
●メリット
確定給付企業年金のメリットは、主に以下の6点です。
給付額の確定
従業員が受け取る年金給付額が、あらかじめ約束されています。「確定給付」というのは、この意味です。これによって、老後の生活設計がしやすいといえます。退職時に一時金を受け取ることも選択できます。
掛金の負担
掛金は原則として企業が負担します。半分までは、加入者の負担とすることもできますが、これには本人の同意が必要とされています。
●企業のメリット
企業の掛金分は、全額損金算入が可能であるという、税制上の優遇措置があります。また、応募者の増加や退職率の低下にも効果があるとされています。
投資教育
従業員の判断で資産運用を行わないので、企業は投資教育をしなくて済みますし、従業員も投資知識を特に必要としません。
柔軟な年金設計
企業の退職金制度に合わせて、柔軟に設計することができます。
ポータビリティ制度
ポータビリティとは、退職や転職をしたときに、その積み立てた年金資産を他の年金制度に移せる(持ち運べる)仕組みのことです。ポータビリティのメリットは、年金資産を非課税のまま持ち運べることや、勤続年数を通算できることなどです。
ただし、転職先の企業が確定給付企業年金を実施していない場合や、転職先の企業が確定給付企業年金を実施していても、転職前の企業からの年金資産の移換を受け入れない規約になっている場合には利用できません。
●デメリット
確定給付企業年金のデメリットは、主に以下の3点です。
運用状態
従業員は、運用状態が分かりにくいという不安があります。
資産の補填義務
企業が年金資産の管理、運用、給付を行います。企業は運用の責任を負い、運用結果が悪ければ、不足分を穴埋めしなければなりません。
運営費用の負担
企業は、運用成果の良否にかかわらず、制度の運営に費用がかかります。
確定拠出年金(DC)のメリットとデメリット
確定拠出年金の特徴から、メリットとデメリットをまとめると次のようになります。
●メリット
確定拠出年金のメリットは、主に以下の4点です。
税制優遇
掛金や運用益が非課税で、受取時にも税制優遇が受けられます。
選択の自由
従業員は、加入者として掛金を拠出し、運用商品を選択し、運用を行うことができます。運用成果によって、給付額が大幅に増額することも期待できます。
運用コスト
運用コストが低いのは、企業にとっても従業員にとってもメリットです。
ポータビリティ制度
確定拠出年金にも、確定給付企業年金と同様に、ポータビリティ制度が適用されます。
●デメリット
確定拠出年金のデメリットは、主に以下の4点です。
変動リスク
運用実績により、受け取る年金額が変動します。企業は運用の責任を負わず、不足分を穴埋めする義務を負いません。運用がマイナスとなった場合には、受け取る年金額が拠出額を下回るリスクがあります。
運用商品などの選択
企業型確定拠出年金の場合は、運用商品や運営管理機関を、従業員が自分で選ぶことができません。
転職や退職時
原則として60歳まで受け取ることはできません。ただし、運用する年金資産の持ち運びは可能です。
企業の教育義務
事業主には、従業員に対する投資教育義務が課せられています。これは、継続的に行わなければなりません。
まとめ
確定給付企業年金(DB)と企業型確定拠出年金(DC)は、どちらも企業が従業員のために設ける私的年金制度です。
しかし、それぞれに特徴があり、メリットやデメリットがあることも、ご理解いただけたと思います。
2024年5月24日
社会保険労務士 柳田 恵一
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