【監修付き】給与明細の作り方を解説。簡単な作り方もお伝えします。
給与明細が必要なことは、なんとなく分かっているけれど、作り方や手順が分からない。簡単に作れる方法はないのか。こんなお悩みをお持ちの方には、ぜひとも読んでいただきたいです。
<給与明細の必要性と法的背景>
そもそもなぜ給与明細が必要なのでしょうか。
それは所得税法が、給与の支払者に、給与明細の作成と、支払を受ける者への交付を義務付けているからです。
所得税法第231条:給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書
居住者に対し国内において給与等、退職手当等又は公的年金等の支払をする者は、財務省令で定めるところにより、その給与等、退職手当等又は公的年金等の金額その他必要な事項を記載した支払明細書を、その支払を受ける者に交付しなければならない。
2 前項の給与等、退職手当等又は公的年金等の支払をする者は、同項の規定による給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書の交付に代えて、政令で定めるところにより、当該給与等、退職手当等又は公的年金等の支払を受ける者の承諾を得て、当該給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる。ただし、当該給与等、退職手当等又は公的年金等の支払を受ける者の請求があるときは、当該給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書を当該給与等、退職手当等又は公的年金等の支払を受ける者に交付しなければならない。
3 前項本文の場合において、同項の給与等、退職手当等又は公的年金等の支払をする者は、第一項の給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書を交付したものとみなす。
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大変ですが、よく読むと給与明細は紙ではなくて、データで交付してもよいことが書いてあります。
法律が給与明細の作成・交付を義務付けているから必要なのだと言ってしまえば、それまでなのですが、たとえ法律にこうした規定がなかったとしても、やはり給与明細は必要でしょう。
給与明細は、支払われた給与(支給額)の根拠となる勤怠情報や給与の総支給額、控除額など、詳しい内訳が記載されている書類です。こうした書類は、給与の支払を受ける従業員からすれば、ぜひとも欲しいものです。支給額に誤りがないことを確認するのに役立つからです。
また、住宅や自動車のローン契約を交わす場合や、確定申告の医療費控除などでは、収入を証明する書類として、給与明細が必要となる場合があります。
<給与明細の作成前にぜひとも知っておくべきこと>
給与明細の作成に取りかかる前に、ぜひとも知っておいていただきたいことがあります。それは、給与明細に記載される項目と、給与明細の作成前に準備しておくものです。
- 給与明細への記載が必要な項目
給与明細への記載が必要な項目には、次のものがあります。
・勤怠に関する項目 ― 出勤日数や欠勤日数、労働時間や欠勤時間
・給与の支給に関する項目 ― 基本給や残業手当、通勤手当など各種手当
・給与から控除する項目
・課税対象額
・口座振込額
このうち、給与から控除する(差し引く)項目には、次のものがあります。
・所得税
・住民税
・厚生年金保険料
・健康保険料
・介護保険料
・雇用保険料
※従業員によっては、控除の対象外となる項目もあります。
- 給与明細の作成前に準備しておくもの
給与明細を作成するためには、多くの情報が必要となります。その情報の根拠となる資料を、準備しておく必要があるのです。一つひとつ見ていきましょう。
・勤怠記録
勤怠に関する項目は、勤怠記録で確認します。タイムレコーダーで打刻したタイムカード、ICカードや生体認証を利用した勤怠管理システムのデータなど、企業によって様々な形態をとります。
・健康保険・厚生年金保険の被保険者標準報酬決定通知書
健康保険・厚生年金保険の被保険者標準報酬決定通知書は、定時決定を受けて9月下旬に届きます。標準報酬は、健康保険や厚生年金保険の月額保険料の元になる金額です。毎年9月分から改定となり、原則として10月支給分の給与控除から新しい標準報酬月額が適用されます。
・住民税課税決定通知書
住民税課税決定通知書は、毎年1月31日までに各地方自治体に給与支払報告書を提出したのを受けて、5月31日までに送付されてくる、各従業員の月々の住民税納付額が記載された書類です。ここに記載された住民税の金額を、6月から翌年5月までの1年間にわたって、月々の給与から控除します。
・健康保険・厚生年金保険の保険料額表、雇用保険の保険料率表
健康保険や厚生保険の保険料は保険料額表、雇用保険の保険料は保険料率表を、それぞれ最新のものを確認する必要があります。どちらもネットで参照し、ダウンロードすることができます。
・源泉徴収税額表
源泉徴収税額表は、給与の金額や扶養家族の人数に応じて決められた税額の一覧表です。給与を支払う都度、この表で徴収税額を確認する必要があります。毎年変更されますが、国税庁のホームページからダウンロードできます。
<給与明細を作る手順>
準備がととのったら、いよいよ給与明細の作成に取りかかります。その手順を見ていきましょう。
STEP1 勤務時間の集計
勤怠記録の情報をもとに、労働時間や残業時間を集計します。休日出勤や深夜労働などの時間、年次有給休暇の取得日数や残日数なども集計します。
STEP2 残業時間の集計と残業代の計算
法定内残業時間と法定外残業時間を区分して集計し、残業代を計算します。
法定内残業(法内残業)は、就業規則や個別の労働契約によって決められた所定労働時間を超えて勤務しているものの、労働基準法で定められた法定労働時間の範囲内で行われた残業のことです。法定内残業に対しては、通常の賃金を支払えばよく、特別に就業規則や個別の労働契約などで定められていない限り、割増賃金の支払は発生しません。
法定外残業(時間外労働)とは、労働基準法で定められた法定労働時間(原則1日8時間、1週40時間)を超えて行われた残業のことをいいます。法定外残業に対しては、割増賃金を支払わなければなりません。
他にも、法定休日出勤手当、深夜手当といった割増賃金があります。
STEP3 各種手当の計算
残業代は法定のものですが、この他に、企業が独自に定めた各種手当があります。
これには、通勤手当、役職手当、家族手当、資格手当などのメジャーなものから、企業の独自性が反映されたマイナーなものまであります。
通勤手当は、たとえば公共交通機関を利用する場合、月に15万円までは非課税となるなど、税法上の特殊性があります。
STEP4 総支給額の計算
基本給に残業手当、通勤手当、各種の手当を加えて、支給総額を計算します。
欠勤、遅刻、早退などがあった場合には、就業規則の規定にしたがい欠勤控除を行います。
STEP5 各種保険料の確認・計算
給与から控除する健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料、雇用保険料を計算します。
・健康保険料と厚生年金保険料の確認
原則として、従業員の4月、5月、6月の「総支給額」の平均から決定される標準報酬月額を基準に、事前に用意しておいた「健康保険・厚生年金保険の保険料額表」に当てはめて確認します。給与から控除するのは「折半額」に示された金額となります。これは、保険料が企業と従業員とが半額ずつ負担するからです。
・介護保険料の確認
介護保険も、健康保険料や厚生年金保険料と同じように確認することができます。ただし、介護保険は、医療保険に加入している40歳以上65歳未満の人に保険料を支払う義務が生じるのが原則です。
・雇用保険料の計算
雇用保険料は、次の計算式で求められます。
総支給額 × 雇用保険料率
健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料とは異なり、企業と従業員との折半ではなく、企業側が多くの保険料を負担しますし、事業の種類によっては雇用保険料率が異なるので注意が必要です。
STEP6 課税支給額の計算
課税支給額は、所得税などの課税対象となる支払金額をいいます。
課税対象は、基本給、残業代、諸手当などで、非課税なのは、通勤手当などです。
課税支給額は、次の計算式で求められます。
総支給額 - 非課税支給額
STEP7 源泉所得税額の確認
源泉所得税は、企業が従業員から徴収し、本人に代わって納める所得税のことです。源泉所得税額は、事前に用意しておいた国税庁の源泉徴収税額表で確認します。
「その月の社会保険料等控除後の給与等の金額」の欄から、該当する範囲を確認し、「扶養親族等の数」当てはまる人数の欄に記載されている金額が、その月の給与から天引きされる源泉所得税額です。
このとき、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を企業に提出していない場合は「乙」の欄の税額となります。
STEP8 住民税の確認
事前に用意しておいた「住民税課税決定通知書」で、各従業員の住民税額を確認します。
STEP9 差引支給額の計算
差引支給額は、次の計算式で求められます。
総支給額 - 控除額
ここで、社会保険料や税金の外にも、組合費や財形貯蓄など会社独自の控除項目がある場合は、それらの控除額も計算します。
<給与明細を効率よく作る>
ここまで、給与明細を作る手順を見てきましたが、その工程(STEP)数の多さに驚かれたかもしれません。これをすべて手作業で行うのは、労力の点からも、ミスが発生するリスクからも、現実的ではありません。
そこで、Excelなどの表計算ソフトを使ったり、給与計算ソフトを利用したりして、給与明細を効率よく作成することを考えることになります。
- 表計算ソフトのテンプレートを使う
従業員が10人程度の企業では、Excelなど表計算ソフトのテンプレートを使って給与明細を作成している例が見られます。特に従業員の全てが正社員で、勤務形態が一律である企業ならば、これで十分ということもあるでしょう。
ただし、数値の入力の多くが手作業となること、社内の制度変更や法改正に応じて、計算式を改変しなければならないことなどを考えると、労力の軽減やミスの削減という効果は、かなり限定されています。
さらに、完成した給与明細は印刷して、紙の「給与明細書」として従業員に交付しなければならず、将来的に電子化することもむずかしくなってしまいます。
- 給与計算ソフトを利用する
給与計算ソフトを導入するとなると、全く次元の異なる話になってしまいます。
そもそも、給与明細を楽に効率よく作成すると言っても、給与計算そのものが手作業や表計算ソフトの利用では、限界があって当然です。
たとえば、Ceridian Workcloud(デイフォース ワーククラウド)を利用すれば、給与計算のためのいろいろな個別設定ができます。一般的には面倒な初期設定も、ウィザード形式といって対話型の方式が採用されていますから、誰にでもわかりやすく、専門知識など全く必要ないのです。
・協会けんぽと健康保険組合、厚生年金と企業年金など、加入状況によって対応することもできます。
・あらゆる報酬形態に合わせた追加手当・控除の設定ができます。
・出張手当も役職毎に設定しタイムシートに出張を登録すれば、出張手当を自動計算なんてことまでできるのです。
「成長するシステム」というのが、Workcloudの最大の特長です。給与明細に限らず、給与計算全体、さらには、勤怠管理、人事管理、就業管理、承認管理、オンライン年末調整などなど、各企業のニーズに合わせたカスタマイズが可能なのです。
<さいごに>
今回は、給与明細の作り方がテーマでした。
しかし、国は「電子政府」の推進に積極的に乗り出しています。国税庁(税務署)や市町村の電子化が進めば、企業もこれに対応することが求められます。公務の効率化だけが進んで、民間企業の業務がいつまでもアナログのままというわけにはいきません。
せっかく本稿を読んでいただいたのですから、これをきっかけとして、貴社の業務のデジタル化、電子化、DDXについても、思い描かれてはいかがでしょうか。
2023年10月23日
社会保険労務士 柳田 恵一
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