労使協定による給与支給日の臨時的変更
<給与支給日の法的な規制>
賃金は毎月一定の期日を定めて、定期的に支払わなければならないという、「賃金の一定期日払の原則」があります。〔労働基準法第24条〕
賃金の支払日が毎月変動すると、労働者の生活が不安定になるからです。
それでも、その日が休日で賃金の振込ができないこともあります。
この場合に、民法の規定によればその支払日は繰下げとなります。〔民法第142条〕
しかし、就業規則で繰り上げるものとすることも可能で、実際に多くの企業が繰上げとしています。賃金の支払日は就業規則の絶対的必要記載事項ですから、どの企業の就業規則にも、必ず規定があるはずです。
就業規則に定めたなら、これに違反することは違法となりますし、安易な変更は不利益変更の問題を生じうることになります。
<労使協定の効力>
労使協定とは、各事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者と使用者との書面による協定のことをいいます。
労使協定の多くは、労働基準法などの最低基準を解除する効力や、罰則の適用を免除する効力を持っています。
労働協約のように、各従業員の労働契約を直接規律する効力は認められませんが、事業場の全従業員との間で効力を持っています。
そこで、ゴールデンウィークによる影響などで、本来の給与支給日に支給することが困難な場合に備えて、給与支給日の臨時的な繰下げについて、労使協定を交わしておけばよいのではないかと考える経営者の方もいらっしゃるようです。
しかし、締結することが可能な労使協定の種類は法定されていますし、それぞれの労使協定について協定する項目も法定されています。法令にない会社オリジナルの労使協定は、効力がないことになります。
労使協定は、使用者と労働者の一部の者との合意によって、対象者全員に効力が及ぶという例外的なものですから、法令によって厳格に定められているのです。
<就業規則の変更>
労働基準法の範囲内で、事前に労働基準法所定の手続に従って、就業規則を変更することで、賃金の支払日を繰り下げることも可能ではあります。これには、変更の必要性が高く、合理的な理由があって、労働者の不利益の程度が軽いなどの要件を満たす必要があります。〔労働契約法第10条〕
一般的には、事前の十分な説明、経過措置、負担軽減策の実施を伴います。
<個別の合意>
従業員ひとり一人から、個別に合意を得るという方法も考えられます。
しかし、たとえば「年次有給休暇を取得しない」という個別の合意は、明らかに労働基準法違反ですから、これは無効になってしまいます。
給与支給日を臨時的に繰り下げることについても、労働基準法の「賃金の一定期日払の原則」に反していますから、グレーな話になってしまいます。
個別の合意による場合には、「労働者の自由な意思による合意」であることが必要とされています。しかし、訴訟で争われるケースでは、労働者側から「本心での合意ではなかった」という主張が行われています。
<給与計算システムの導入>
就業規則に定められた給与支給日に、間に合わないかもしれないというのは、従業員数が増えたり、法改正が繰り返されたりしたことが原因ということが多いものです。こうしたことで、給与計算が間に合わなくなるのであれば、臨時的な支給日の繰下げにも限界があります。
また、就業規則の変更や個別の合意には、従業員の不満や不安が伴います。
むしろ、給与計算システムの導入や電子化によって、従業員に負担を与えず、根本的に解決することを考えるべきではないでしょうか。
2024年2月13日
社会保険労務士 柳田 恵一
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