業務災害と解雇
<業務災害>
労働者災害補償保険(労災保険)は、業務上の災害(業務災害)と通勤中の災害(通勤災害)による負傷、疾病、障害、死亡について、被災労働者や遺族を保護するために必要な保険給付を行う公的保険制度です。
通勤災害については、その防止に向けた会社の努力が、安全教育や情報提供などに限定されています。
したがって、業務災害ほど会社の責任が重くはないので、解雇について特別な配慮が必要なケースは稀です。
しかし、業務災害をきっかけに解雇を検討する場合には、配慮すべき点が多いといえます。
会社や上司に対する恨みなどにより、意図して業務災害を発生させた場合には、悪質性が高いですから、被害の程度によっては懲戒解雇を検討することになります。
これは、重過失による業務災害も同様です。
重過失による業務災害とは、結果発生の予測がたやすい場合や、結果発生の回避がたやすい場合に、注意義務に反して結果を発生させた業務災害をいいます。
<過失による業務災害>
故意・重過失によらず単なる過失によって業務災害を発生させた場合には、これを懲戒の対象としない会社もあります。
懲戒の対象としないのは、業務災害発生の原因を教育不足・指導不足に求めるからです。
しかし、会社の教育・指導が十分であって、およそ業務災害の発生が想定できない場合にまで、懲戒の対象から外してしまうのでは、他の従業員が安心して勤務できませんし納得できないでしょう。
やはり、業務災害発生の原因を具体的に吟味したうえで、本人に責任がある場合には、懲戒の対象とすべきです。
そして、過失による業務災害であっても、被害が大きければ懲戒解雇が検討される場合があります。
しかし、被害の大きさにとらわれて、悪質性の低さを見失うと、解雇権の濫用となり解雇が無効となることもあります。〔労働契約法第16条〕
懲戒と教育・指導の併用によって対応するのが基本となります。
<業務災害による能力低下>
業務災害で被災し、健康状態の減退や障害によって、業務遂行能力が低下する場合もあります。
そして、能力低下が著しい場合には、普通解雇を検討することもあります。
しかし、会社の施設・設備・器具の欠陥や不適切な配置、教育・指導の不足などが業務災害に影響していた場合には、会社に雇用の維持が求められます。
具体的には、異動や業務の転換によって、勤務を継続できるように配慮することになります。
一方で、被災者に故意・重過失が認められる場合には、能力低下による普通解雇一般の基準で判断することとなります。
<労働基準法による解雇制限>
以上のどのケースであっても、被災者が業務災害によって療養のために休業した場合には解雇が制限されています。〔労働基準法第19条〕
【労働基準法第19条:解雇制限】
使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。 ② 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。 |
社会保険労務士 柳田 恵一