助成金受給の基本要件
<雇用関係助成金>
従業員を休業させ、事業主が休業手当を支払った場合に、その一部が助成されるなどの雇用調整助成金について、新型コロナウイルス感染症拡大の影響から、大幅な例外措置が取られましたし、これが注目されて、支給申請件数が大幅に伸びました。
また、厚生労働省は、雇用関係を維持しながら他社に従業員を出向させる在籍型出向(雇用シェア)を推進するため、出向元と出向先双方の企業を対象とした「産業雇用安定助成金」を創設しました。
これらを含め、多くの雇用関係助成金は、事業主の負担する雇用保険料を財源とする雇用安定事業として行われています。
事業主の負担する雇用保険料が、助成金の受給に相応しくない事業主に流れたり、不正受給が行われたりすると、公平に反する結果となりますから、各雇用関係助成金に共通の受給要件等は、以下に示すように厳格です。
<受給できる事業主>
雇用関係助成金を受給する事業主(事業主団体を含む)は、次の1~3の要件のすべてを満たすことが必要です。
1 雇用保険適用事業所の事業主であること(雇用保険被保険者が存在する事業所の事業主であること) 2 支給のための審査に協力すること (1)支給または不支給の決定のための審査に必要な書類等を整備・保管していること (2)支給または不支給の決定のための審査に必要な書類等の提出を、管轄労働局等から求められた場合に応じること (3)管轄労働局等の実地調査を受け入れること など 3 申請期間内に申請を行うこと |
<受給できない事業主>
次の1~9のいずれかに該当する事業主(事業主団体を含む)は、雇用関係助成金を受給することができません。
特に、4の要件は厳しいように思われます。
1 平成31(2019)年4月1日以降に雇用関係助成金を申請し、不正受給による不支給決定又は支給決定の取り消しを受けた場合、当該不支給決定日又は支給決定取消日から5年を経過していない事業主(平成31(2019)年3月31日以前に雇用関係助成金を申請し、不正受給による不支給決定又は支給決定の取り消しを受けた場合、当該不支給決定日又は支給決定取消日から3年を経過していない事業主)。 なお、支給決定取消日から5年(上記括弧書きの場合は3年)を経過した場合であっても、不正受給による請求金を納付していない事業主は、時効が完成している場合を除き、納付日まで申請できません。 ここで、「不正受給」とは、偽りその他不正の行為により、本来受けることのできない助成金の支給を受けまたは受けようとすることを指します。例えば、離職理由に虚偽がある場合(実際は事業主都合であるにもかかわらず自己都合であるなど)も不正受給に当たります。 また、「請求金」とは、不正受給により返還を求められた額、不正受給の日の翌日から納付の日まで、年3%の割合で算定した延滞金、不正受給により返還を求められた額の20%に相当する額(上記括弧書きの場合を除く。)の合計額です。 2 平成31(2019)年4月1日以降に申請した雇用関係助成金について、申請事業主の役員等に他の事業主の役員等として不正受給に関与した役員等がいる場合は、申請することができません。 この場合、他の事業主が不支給決定日又は支給決定取消日から5年を経過していない場合や支給決定取消日から5年を経過していても、不正受給に係る請求金を納付していない場合(時効が完成している場合を除く)は、申請できません。 3 支給申請日の属する年度の前年度より前のいずれかの保険年度の労働保険料を納入していない事業主(支給申請日の翌日から起算して2か月以内に納付を行った事業主を除く) 4 支給申請日の前日から起算して1年前の日から支給申請日の前日までの間に、労働関係法令の違反があった事業主 5 性風俗関連営業、接待を伴う飲食等営業またはこれら営業の一部を受託する営業を行う事業主 これらの営業を行っていても、接待業務等に従事しない労働者(事務、清掃、送迎運転、調理など)の雇い入れに係る助成金については、受給が認められる場合があります。また、雇い入れ以外の助成金についても、例えば旅館事業者などで、許可を得ているのみで接待営業が行われていない場合や、接待営業の規模が事業全体の一部である場合は、受給が認められます。なお、「雇用調整助成金」については、性風俗関連営業を除き、原則受給が認められます。 6 事業主又は事業主の役員等が、暴力団と関わりのある場合 7 事業主又は事業主の役員等が、破壊活動防止法第4条に規定する暴力主義的破壊活動を行った又は行う恐れのある団体に属している場合 8 支給申請日または支給決定日の時点で倒産している事業主 9 不正受給が発覚した際に都道府県労働局等が実施する事業主名及び役員名(不正に関与した役員に限る)等の公表について、あらかじめ承諾していない事業主 |
<不正受給の場合の措置>
雇用関係助成金について不正受給があった場合、次のように厳しく取り扱われます。
1 支給前の場合は不支給となります。
2 支給後に発覚した場合は、請求金の納付が必要です。
「請求金」とは、不正受給により返還を求められた額、不正受給の日の翌日から納付の日まで、年3%の割合で算定した延滞金、不正受給により返還を求められた額の20%に相当する額の合計額です。
3 支給前の場合であっても支給後であっても、不正受給による不支給決定日又は支給決定取消日から起算して5年間は、その不正受給に係る事業主に対して雇用関係助成金は支給されません。
4 不正の内容によっては、不正に助成金を受給した事業主が告発されます。
詐欺罪で懲役1年6か月の判決を受けたケースもあります。
5 不正受給が発覚した場合には、原則事業主名等が公表されます。
<代理人の責任>
社会保険労務士や弁護士などの代理人が、事業主の申請を代わって行う場合、以下の事項に承諾しておく必要があり、ハイリスクな業務となっています。
1 支給のための審査に必要な事項の確認に協力すること 社労士事務所や法律事務所等への立ち入りを含みます。 2 不正受給に関与していた場合は、 (1)申請事業主が負担すべき一切の債務について、申請事業主と連帯し、請求があった場合、直ちに請求金を弁済すべき義務を負うこと (2)事務所(又は法人)名等が公表されること (3)不支給とした日又は支給を取り消した日から5年間(取り消した日から5年経過した場合であっても、請求金が納付されていない場合は、時効が完成している場合を除き、納付日まで)は、雇用関係助成金に係る社会保険労務士が行う提出代行、事務代理に基づく申請又は代理人が行う申請ができないこと |
<助成金受給の心がけ>
支給申請日の前日から起算して1年前の日から支給申請日の前日までの間に、労働関係法令の違反があった事業主が、雇用関係助成金を受給できないことは上に示した通りです。
「労働関係法令」には、労働基準法だけでなく、労働安全衛生法、最低賃金法、育児・介護休業法、雇用保険法、労災保険法、高年齢者雇用安定法、職業安定法等々、数多くのものが含まれます。
助成金受給のチャンスを失わないためにも、普段からホワイト企業であり続ける努力が必要です。
また、申請を委託するのであれば、会社の状況をよく知っている顧問社労士に任せることをお勧めします。
2021年1月18日
社会保険労務士 柳田 恵一