学習性無力感
<学習性無力感>
「学習性無力感」というのは、もともと心理学で「抵抗したり回避したりすることができないストレス下に置かれているうちに、そのストレスから逃れようとする行動を起こさなくなってしまう現象のこと」を言っていました。
今では、「自分の行動から期待する結果が得られないことを、何度も経験するうちに、何をしても無意味だと思うようになってしまい、たとえ結果が期待できる場面でも積極的に行動を起こさなくなってしまった状態」のことについても言われます。
<個人の学習性無力感>
職場で、ある従業員のやる気が見られない、向上心が感じられないということがあります。
職場では、たびたびストレスに直面しても、精神的に充実しているうちは、このストレスを乗り越えようと抵抗を示します。
しかし、ストレスに抵抗してみても、乗り越えることができなければ、さらに大きなストレスを感じることになります。
こうした体験を何度も繰り返していると、「結局、何をやっても無駄だ」と思うようになり、抵抗することをやめてしまいます。
この状態が学習性無力感です。
学習性無力感に陥った社員は、誰かに細かい指示を出してもらわないと、自発的に行動できなくなり、パフォーマンスが低下します。
これはまさに典型的な「指示待ち人間」の状態です。
<組織の学習性無力感>
新たに入社してきた従業員は、やる気に満ち、新鮮な目で物事をとらえ、さまざまなアイデアや意見を出すものです。
しかし、学習性無力感に陥ると、アイデアや意見を出さなくなります。
これは、自分が口出ししたところで、状況は変わらないと感じるようになったことによるものです。
組織内で発言する機会が減ると、その組織の改善や向上は期待できなくなります。
こうして発生した個人の学習性無力感は、組織のメンバーにも伝染します。
ある従業員が学習性無力感に陥ることで、その人のパフォーマンスが低下し、周囲の従業員がその穴を埋めることになります。
しかし、学習性無力感に陥る社員が一人ではなく、人数が増えてしまうと、フォローが必要となる業務が増えて、組織全体のパフォーマンスも低下します。
組織の全員が、「自分がいくら頑張ってみても、組織が今の状態から抜け出すことはできない」と感じ、組織の学習性無力感が発生します。
<全社的な学習性無力感>
職場では、ひとり一人のネガティブな言動が、周囲の社員にも悪影響を与えます。
たとえば先輩から「この会社では、いくら頑張っても評価されない」という話を聞かされた新人や後輩は、やる気をそがれることになります。
さらに、管理職の中に「頑張っても無駄」という共通認識が生じると、全社に学習性無力感が蔓延することになります。
<学習性無力感の発生原因>
学習性無力感の中心には「何をやってもムダ」という固定観念があります。
この固定観念は、周囲の人、特に影響力の強い上司や先輩から、次のような態度を取られることによって、植え付けられてしまいます。
・能力や言動の否定
・向上心、努力、意欲、責任感の否定
・小さなミスに対する叱責や軽蔑
・報連相に対する拒否的態度
これらは、パワハラと重なる部分も多いのですが、必ずしもパワハラ行為に限られません。
<学習性無力感の打開策>
当然ですが、全従業員にパワハラ教育を実施し、社内からパワハラを排除しなければなりません。
また、部下や後輩の人格を尊重する風土の醸成も必要です。
一方で、「失敗した従業員」「結果を出せなかった従業員」には、同じタスクを「成功させた従業員」「結果を出した従業員」の指導を受けさせます。
この中で、成功のポイントは、努力と能力の向上であることに気づいてもらわなければなりません。
さらに、管理職が「努力が報われない」と思わないように、適正な人事考課制度の運用も必要です。
2022年12月23日
社会保険労務士 柳田 恵一